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you're in me, i'm in you

最近きみはちっとも僕の話を聴かない
そうだろ
だから少しだけ嬉しいよ

最近きみはすこし歩くのが遅くなった
そうだよ
だから僕はまた少し嬉しい

最近きみはすこしも口を開かなくなった
そうだった
だから僕はすこしかなしい

だから箱の中身はからっぽ
お別れするのは寂しいけれど
僕はまだすこしだけ
きみでいたいんだ

僕の目の前
いくつものスポットライト
いくえにも影になって
熱を持ち始める
僕を捕らえて喰らう光が眩しくて
なかなか見つからない

また闇がやってくるんだ
僕だけじゃ潰れてしまった
僕はまだなにか
きみの言葉がほしい
きみにすがっていたい

そうだろ
ぼくのなかの、きみは
# by haccax | 2006-10-12 19:12 | 飴玉(短編)

レイゼル

消えかけてる
擦れた残像
振りむけばセピア
ああ、最初から

否応無く伸びる脚、それを奮い立たせ本能
少しだけ待っていろ、すぐに煮え滾る煩悩
はやく、テイムしてよ

聞き飽きたアルペジオに、終止符を打て
奇麗ごとだなんて、すぐに偶像崇拝
そうさ、フィードしてくれ

あと数歩先なんだ
急降下
笑っちまえ

まだ死にたくないんだ
だから殺してくれよ
# by haccax | 2006-10-06 19:00 | 飴玉(短編)

倶楽部

「それでは、これから倶楽部活動をはじめます」
部長の鈴木尚人が静かに言った。
鈴木尚人というのは、僕だ。
「起立、礼」
副部長の小林瞳が続く。
その言葉に促されて、集まった部員が一斉に起立し礼をする。制服の擦れあう音だけが響く。
締め切った美術室は所々カーテンの隙間から光が零れている。いや、寧ろそこだけ闇が裂けているといった方が正しいかもしれない。漸く闇になれた目で、やっと横長のテーブルと長イスがずらりと教室の前から後ろまで幾つか配置されているのがぼんやりと分かる程だ。備え付けのエアコンは準備室から絵の具のにおいを運んできているらしく、酷い日にはニスや木工用ボンドのにおいまで混じっている。
僕は部員全員が着席する音を聴くと、赤い懐中電灯を付けて手元の名簿を照らした。
上からひとつずつ読み上げ、点呼する。曜日ごとに振り分けされたその名簿には、二重線で消された跡や太い字で書き直された名前が数え切れないほど存在する。僕はそれを、一から読み上げるのだ。

人は、誰しも仮面を被っているものである。

この倶楽部は、その仮面に喰われた生徒たちの謂わば教会のようなものなのだ。
# by haccax | 2006-09-30 15:10 | (倶楽部)

雨傘
叩く粒
心地良い
長袖

肌寒いね
隠せるから
青い血管
不健康な肌
浮いてるよ

受話器から誰かの声
僕の名前すら知らない
ねえ言葉の破壊力
僕は君をいとも簡単に壊せるよ
せめてもの僕のヤサシサ
長くて冷たい沈黙
一方通行の闇

澄んでいた
嫉妬した
手に入れたくなった
言葉をつくった
取り繕った
偽った
君は笑った
手に入れた
つもりになった

ゲームオーバーなら
またリスタートすればよかった
リセットボタンを押そうとした
案外愛着があったみたいだ
愛情のかけらもない玩具
手放したくないだけの我儘
僕は使用済みの所有者

灰汁を取るように
僕の言葉の欠陥を拾った
消えればいいのに
僕のツクリ笑顔を見抜くなんて
消えればいいのに
消えればいいのに
消してしまえばいいのに

僕が黙っているあいだ
君は推測しかできない
消えてしまえばいいのに
悪夢巻き込んだ妄想は毒
すぐには居なくならないよ
残像を残して
消えればいいのに
消えればいいのに
消してしまえばいいのに



ねえ
推測のなかの僕は、まだ元気ですか
君に答えを教えてますか

乾ききった赤眼が
震えながら僕をまだ見てる
# by haccax | 2006-09-01 16:02 | 飴玉(短編)

しあわせ

ため息ひとつ
幸せが逃げるなら
ぼくにはもう
幸せなんて持ち合わせてない

ああ
どうやって泣くんだっけ?
風呂場でひとり声を殺して
水道水の粒に涙が溶けてくよ
汚い水がジーンズに染み込んでくよ

ああ
そうやって逃げるんだっけ?
布団のなか爪で引掻いて
暖かい毛布も血みどろだ
耳を劈く声のフィルターなんだ

ため息ひとつ
幸せが逃げるなら
ぼくにはもう
失うべき幸せなんて残ってない

君の唇から零れた幸せ
ぼくにはただの薄っぺらい皺寄せ
# by haccax | 2006-08-31 21:45 | 飴玉(短編)