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モスキート(MOSQUITO)

静かに素早く確実に、鋭い平手を放った。

僕の掌のうちがわで
吸ったばかりの血を吐き
千切れた透明の羽は抜け落ち
ぐしゃぐしゃに潰れて
哀れに死んでいった虫。

可哀想に。
こんなにもちっぽけで。

バスルームの大海原を泳いだと思えば
両足もがいて溺れている。

眼には、よく見ると赤いサングラスをかけていた。
光と熱と二酸化炭素の方向へ漂っては
バチッと景気のいい音を立てて焦げ死ぬ。

仰向けに倒れたままの虫は
ひくひくと節々を動かしながら
足と足をこすり合わせている。

しつこいやつだ。

僕はわざわざキッチンへ行き
爪楊枝を予備にと3本も持ってきて
1匹のちっぽけな虫を、終わらせた。

可哀想に。
こんなにも儚くて。
こんなにも非力で。

激しい憎悪は、パチンと掌を打ったら
醜い嫌悪に変わってしまったらしい。
by haccax | 2004-10-07 11:10 | 飴缶(文)


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