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堕落論

ディスプレイのむこうの女が笑う。
ニタアって効果音が似合いそうなくらい、怪談話の口裂け女っぽく笑う。
僕はそれを、視界にまつげが邪魔するほど半目で見てるわけだけれど。

友人が弁当の時に、僕がしまい忘れたノートに落書きしたサイトのアドレス。
URLバーに入力した結果が、これ。
ディスプレイのむこうの女。
黄色と赤の文字が、エンドレスで高速反転してちかちか光る。
あからさまに目に悪そうなバナー。
あからさまに頭の悪そうな宣伝文句。
プラスチック・ルアーに釣られるブラック・バス。

電車にゆられながら腹にパンチを食らった彼の、カバンに隠された週刊誌。
本屋で中年男性が立ち読みしているような週刊誌。
土手にちょうど半分ずつページを開きながら雨に濡れてパリパリになった週刊誌。
大人向けの。
オトナムケノ。

数人がギャアギャア騒いで、本気でK-1の真似事を始める。真後ろの婦人の眉がつりあがる。
やめろよお、と説得力のない声を吐きながら鋭いアッパーカットを食らわせる。
迷惑そうな顔を一度向けて携帯画面に目を戻す、編みタイツの若い女性の無言。
全身黒スーツを着て、しっかりムースで固められた七三分けの、上司と部下のビジネス会話。
化粧と香水の臭いがきついおばさん団体の、雑誌で読んだような世間話。
世の中スタックしているなあ、と澄まし顔でシェイクスピアでカバーした楽譜の音階を読んでいる僕。
黒いランドセルを背負った小学生は、長方形の窓のそとの風景に流されて、目が泳ぐ。

誰かが汗を流して埋め固めたコンクリートを、だるそうにスニーカーの踵をこすって歩く。
笑えないわけじゃないし、泣けないわけじゃない。
これといって不自由はないし、かといって自由なわけでもない。
見極めようとしたいのなら、勝手に、気が済むまですればいい。
誰ひとり、構いやしない。

文字一つの意味さえマトモに知らない脳みそが、どれだけシャッフルしたって黒い点の集まり。
言葉ひとつで全てが崩れてひとつが産まれ、
言葉ひとつに全てを賭けてひとつに対抗し、
多分そうやって人間も生きている。
推測で、生きている。
by haccax | 2005-10-14 06:22 | 飴缶(文)


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