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ハチミツ

あたたかな 橙色の 陽だまりのなか

      アイスティーに 溶けてゆく 氷

うつろに 混ざってゆく 透明な 液体


     ぼくの うたたね する おと。


          蜜色に染まった 髪が

          うたいながら 空に絡んで

  僕はその空を めいっぱい吸い込む

      蜜色に染めてゆく 染めてゆく


遠くで わらいながら 踊る

   したたかな 人魚のような

きみの 冷たいキレイな笑みが

 遠くで わらいながら 煌めく


 まっしろな カーテンが

       みついろの れーすに

ゆらゆら

         ゆらゆら   ...
# by haccax | 2008-10-13 23:27 | 飴玉(短編)

漂着路

君は、僕を見るなり「可哀相」と微笑んだ
詰まらぬ飾り文句など着飾って

僕は知らぬ間に薄汚れて、
僕は束の間の楽園を愉しむ

堕ちた地上の世界に
一輪の純白の花が揺れて咲う
君は不馴れな笑みを浮かべて

箱庭の中の僕の言葉
ヘッドフォン越しに響く奇声
力任せに踏んでいるアクセル
行く宛てもなく着いておいで

詰まらない悲劇のヒロインぶって
君が苦しそうに悲鳴を上げて笑う
楽しいだろう?
不愉快な空気を掻き消すように
下らぬ女だ、と切り捨てるだけの余地もなく

虱潰しに朽ちてゆく君を弄る
吐いて捨てるほど拾ってきた君が
僕を不満にさせる
# by haccax | 2008-02-22 02:22 | 飴玉(短編)

眠れない夜(訪れない朝)

こんなに静かな夜に限って
僕はどうしても、眠れない
眠れない夜に限って
僕の周りには、誰もいない

そういえば、あの日だって
僕の周りには、誰もいなかった
しんとして、時折遠くで電車が通り過ぎる音がして
誰の声も聞こえない静かな夜
クラヴィノーヴァの冷たい鍵盤の上に伏す

僕は翌朝、ニュースにも報道されずに
ただの数値として処理され、加算される(だろう)
かあさんは目玉焼きを焦がし
いもうとは牛乳をこぼし
とうさんは電車に乗り遅れる

君が知るのはいつだった(だろう)か
三日後か
数時間後か
何年か過ぎた後か
それともずっと知らずに過ごすの(だろう)か

僕は残酷にも天や地獄にも逝かず
ただぱったりと生きることをやめて
意識も言語も光や音という感覚も失い
腐敗して風化する(だろう)
蔑むことも崇めることも
全て言語としての意味をなさない

僕の所為?(誰の所為?)

僕は無責任だ
遺書でも書いたら気は紛れた(だろうか)
ああ、遺書でも残してしまったら
僕が(代わりに)死ねばいいのに?
そしたら(殺した奴は)二度殺される(だろう)
要はそんなことじゃない

もし僕が、今日いなくなっていても
それを知る人は、今日を生きている
いなくなった僕は、いなくなった今日を知らない
それを知る人は、いなくなった僕の昨日を知らない

僕がいなくなった(はずの)日
君は何の不安もなくベッドで横たわり
心地よい寝息をたてて眠っていた(だろう)
僕がちいさく音を立てても
君は気付くこともなく眠り続けた(だろう)

だから、僕は安心して、

いなくなった(はずだ)

その日

君が何の夢を見ていたか
僕は知らない(だろう)
楽しい夢か、恐ろしい悪夢か
そもそも夢など見ていなかったのか
どんなことでもいい
僕は知らない(だろう)
知らないまま、僕は、今生きている

僕(と君)は、それを、君(と僕)のその日を、知った

いなくなった(はずの)僕は
いなくなった僕の昨日を知っている
いなくなった(はずの)僕は
いなくなった僕のその日を知った
いなくなった(はずの)僕は
上手にいなくな(れなか)った代償に
君を抱きしめること(しか)出来ない
その拳は僕に向けて
そのナイフは僕が受け止めて
だから(だけど)、やめて
君(だけ)はいなくならないで

ごめんなさい
上手く(いなくなれ)なくて、ごめんなさい
上手に(生きることが)出来なくて、ごめんなさい


所詮は下らない一匹の醜い生物おろかものの知恵(ひとつおぼえ)
# by haccax | 2007-06-04 03:10 | 飴缶(文)

大丈夫だよ、口癖の僕は
三度目で限界(いらだち)
繰り返し繰り返し、何度も確認する疑りぶかい声も
三度目は限界(あきらめ)
三度目の正直が無いまま
諦めるのやら、苛立つのやら
くたびれた二酸化炭素を吐き出す(フリ)
途切れる電波(いらだち)、続かない通話(あきらめ)
僕の所為?(ふたりの所為)

おいで、いつも飼い主の僕は
手招きするけれど(束縛)
近付いてくる無防備な好奇心も
尻尾を振ってくるけれど(偽善)
僕の飼い主は見つからないまま
諦めるのやら、苛立つのやら
くたびれた銀の首輪を締め直す(フリ)
千切れる紐(束縛)、届かない腕(偽善)
僕の所為?(ふたりの所為)
# by haccax | 2007-06-04 03:06 | 飴玉(短編)

置手紙

お久しぶりです、皆さん
もうそろそろ、桜も散り始める頃ですが
お元気でしょうか
僕は、元気です

この記録を始めてから
今年の夏で何年目になるのかな
もう随分昔のことだから
とうの昔に忘れてしまった
長い間留守にしていたけれど
この家の玄関先には雑草一つ見当たらない

僕は月並みに高校を卒業して
月並みに大学へ進学した
月並みに友達も出来て
月並みに忙しくなって
月並みの毎日を送っています
悪くないかなって、思う
けど、やっぱり昔と似た空気を吸うこともあるんだ
そういうときの空気ってさ
瓶に詰めて置いておきたいくらい、切なくて
とても心地いいんだ

中学の時の僕は、本当に閉じこもって
外面のいい優等生だった
教師に媚びを売ることもなく
説教喰らうこともなく
陰口叩かれることもなく
いつも校庭の緑色のネットの、向こう側の
ビルの遠い林を呆然と眺めてた
目立たないように息を潜めながら
省かれないように声を張り上げて
どこか冷めた目しながら、炭酸水啜ってた
高校生になれば何か変わるって、
適当なこと考えながら保健室行って
適当に温度計を弄って三十七度突破させて
誰も居ない路地裏とか、通って帰った
食べ残してた弁当のおかずとか
道端の、黄色い眼をした黒猫にあげて
カバンを椅子にして座り込んでた、な

高校生の時の僕は、凄く不安定で
丁度そのときに、この隠れ家を作った
最初の夏休みが、僕は消えかけた最初の日
真夜中にピアノの上に白い粒を広げて
何度か寝室を往復してから涙が止まらなくて
うるさいサイレンの音でぼんやり、頭が起きて
担架の上なのか、視界が凄く揺れていた
直ぐ隣に点滴用の透明なパックが吊るされていて
水色のカーテンの向こうで白い人が動いてた
白いシーツがあって
右腕から点滴が外れてしまって溢れた僕の血があった
気付いたら青い顔した女の人が駆けつけて
何人か集まったと思ったら、映像が乱れて
また気付いた時には、母がおつりを財布にしまっているところだった
何度も思い出したブツ切りの記憶
夏休みが明けると僕は、
何事もなかったかのように学校へ行き
宿題を提出し、電車に揺られて帰った
誰一人として
「僕が居るということ」に違和感というものを微塵も感じずに
いつもと変わらない日々が過ぎる
いつもと変わらない位置に、教室に、出席番号に、あの席に、僕が居て
彼らの脳内で、僕は平凡に生きている

卒業した僕は、
まだ、ここを卒業出来ないでいるみたいだ
そんなに悲観することはない、
誰だって落ち込むことはある、とか
そんな前向きな言葉が欲しい訳じゃない
俯いているからって前を向かなきゃならない訳もない
じゃあ、なんなんだって
お前は何が言いたいんだって
人は僕を、天邪鬼とか、ヒネクレとか、ヘソ曲がりとか
言うかもしれないけど
そんなナマエなんて、僕には、関係ない
誰か僕を優しいとか冷たいとか、言おうが
僕は、僕を、僕以外の何者にも思えない
ただ、誰かの幸福なお話と記憶に埋もれていくなかの僕は
恐らく誰かが改札を抜けたその時に、空虚に笑い
恐らく誰かが手を打って笑ったその時に、深呼吸をする
僕はその度にそのシーンを記憶して
忘れないようにこのファイルに綴じるんだ

長い間、留守にしていて、ごめん

僕は 帰ってきたよ。
# by haccax | 2007-04-08 00:25 | 飴缶(文)