薄荷が

行方不明なんだ
こんなとき私は どう対処すべきなのだろうか
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# by haccax | 2006-11-02 17:16

解析

私の中の僕というものを書いていこうと思う。僕というものは以前、名前のないただ漠然としたものだった。次第にその何かが意思を持って、ものではない蠢く無数の微生物になり、或る出来事をきっかけに突然そのアウトラインをくっきり現した。その出来事が私の初めての「背信」であり、またその何者かへの「憧れ」や「羨望」であった。
私は病んでいた。半ば植物状態であった。感覚は完全に麻痺し、医者には典型的なパラノイアと診断された。寧ろ医者を受け入れるようなスペースさえ持ち合わせていなかった。私の中で芽生え、黒黒しい感情を糧に伸びていった生き物は、やがて私を内部から侵食し、喰らった暗黒の内でぎらぎらと鈍く眼を輝かせて息衝いた。
夏の其れも盆を過ぎた猛暑も終わりを告げる頃、その「背信」がゆっくりと首を擡げた。私は未だ其れを抑制させる力を多少なりとも残していたが、後々逆に其れが私自身の足をも引っ張ってゆく事さえ予測出来なかった。随分と昔から私の中に潜むその「背信」という名の僕、つまり私の分身は、闇の中で唯ひたすらに掘り下げていたのかも知れない。いや、然うなのだろう。私の中ですくすくと比重が大きくなるにつれて、黒黒しい感情をも拡散させ転移させていったに違いない。謂わば癌のようなものなのだ。私は既に私としての機能を果たし切れていなかった。
夏期休暇が私の中の悪魔若しくは私そのものに機会を与えたのであろう。高校に入学した年の夏のことであった。私は死んだ。
現代の死に対する意識は寧ろmemento moriの領域にすら達さず俗的な生暖かなポジティブしか掬い取れない。既にその眼さえ直視しようとせず、通俗に倣い厭らしい顔をして除害しようとする。冷ややかな侮蔑の視軸だけが白い壁やコンクリートを嘗めまわすのである。然れども私の死に対する異常なまでの執着は並並ならぬ一種異端とも呼ぶべき想いに駆られるのだ。或る人は狂人、廃人と罵ったりしたけれど、結局は辿り着く慰めさえも全一致で私を卑下するのであった。
死前の用意は存外にものの数分で済んでしまい、然し何かに於いて手を掛けるとしたら果てし無く膨大で一生を懸けても無謀な気がしてきて一向に進む気配どころか退くことも出来ないのであった。
さて私は、遺書を書く迄に至った。数日前に用意していた物は未だ書きかけであったので、私は改めて書き正そうと思い立った。否、思い立った直後ものの数十分で書き終えてしまった。書き残すことも言い残すことも何も持ち合わせていなかったからだ。然して有難うや申し訳ありません等と謙遜する必然性の微塵すら感じられなかったので、結局消しゴムと時間を少々浪費するのみであった。
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# by haccax | 2006-10-30 17:43 | 飴缶(文)

妄想具現化(1)

嗚呼下らない
下らない
下らない
下らない
いつからかも忘れてしまったよ。
本当に下らない。
生きていられるのだろうか。
本当に下らない。
目の前を飛び廻るショウジョウバエのようなんだ。
本当に下らない。
本当に幻滅した。

隣町の名高い科学者が、つい先日一瞬で死ねる薬を開発したという。
安楽死のように毒を回すこともなく、血を流すことも痛みさえも無く、
ほんの一瞬で、目的を果たす前に手のうちで潰されて死ぬフライのような死に様だという。
僕がどれほどそれを羨望したことか!
隣町の名高い科学者の研究室には、真の目的さえ知らずに、連日のこのことカモがやってきた。
僕がその事件を知ったのは、その長蛇の列に並び始めてから約二日と半日後だった。
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# by haccax | 2006-10-24 18:51 | 飴玉(短編)

自首

ああ、またサボってるっていわれても
仕方がないよね
嗤われても

僕には理性コントロールができない
惰性には逆らえない
そうやって自分に負けてるんだ
弱ってる負けそうな自分を
負かしてしまうんだ
まあいいや、って、油断して
いつまでも中途半端に浮いたままで
いたいんだと思う
地に足をつけないで
宙ぶらりんで首吊ってて
ああもういいや、って
そういう瞬間があるんだと思う

こうやって言い訳しても
綺麗事に過ぎなくて
自己正当化に過ぎなくて
やっぱり
劣等感
怠惰
倦怠感
反抗期
自己満足
自己弁護
自己嫌悪
全部ひっくるめて
お子様セット
そういうのが見たいんだろ
そのままで居たいんだろ
ふと思い出しては、また
腹を抱えるが良いさ
ほら、また鼻で嗤う

一年後には
五年後には
十年後には
オトナになったら
どうせ詰んない
木偶の坊になるという
どうせ甘酸っぱい
思い出になるという
あと少しだけ
お子様モラトリアム

でも合間に見え隠れしているのは
結局
どうせ誰でも
僕をそういう眼で見る

金縛りはいつでも解ける
もう少しだけ
このままでいさせて

僕をそういう眼で見る
心底潰してしまいたい衝動
それでいて執着のない冷淡

ああ、誰か其処にいるのなら
戸に耳を欹てているのなら
今すぐに出て来い
今すぐに僕を殺してくれ

どうしようもない僕を
どうしようもないヤサシサで
宥めてくれるのは
もう
誰もいないのに


独り立ちするには
まだ足が竦むから
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# by haccax | 2006-10-23 18:12 | 飴玉(短編)

P(ピアノ)

ショパンが泣いている
僕の指は戦慄いている
メンデルスゾーンの陽気が
まだ程遠いころなのに
単音のジムノペディが
単調につらつらと謡いだす
アラベスクは今宵も
雨の庭にたゆたう月の光とともに
亜麻色の髪の乙女と躍る
死んだような暖かい静寂が訪れた
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# by haccax | 2006-10-20 19:36 | 飴玉(短編)

you're in me, i'm in you

最近きみはちっとも僕の話を聴かない
そうだろ
だから少しだけ嬉しいよ

最近きみはすこし歩くのが遅くなった
そうだよ
だから僕はまた少し嬉しい

最近きみはすこしも口を開かなくなった
そうだった
だから僕はすこしかなしい

だから箱の中身はからっぽ
お別れするのは寂しいけれど
僕はまだすこしだけ
きみでいたいんだ

僕の目の前
いくつものスポットライト
いくえにも影になって
熱を持ち始める
僕を捕らえて喰らう光が眩しくて
なかなか見つからない

また闇がやってくるんだ
僕だけじゃ潰れてしまった
僕はまだなにか
きみの言葉がほしい
きみにすがっていたい

そうだろ
ぼくのなかの、きみは
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# by haccax | 2006-10-12 19:12 | 飴玉(短編)

レイゼル

消えかけてる
擦れた残像
振りむけばセピア
ああ、最初から

否応無く伸びる脚、それを奮い立たせ本能
少しだけ待っていろ、すぐに煮え滾る煩悩
はやく、テイムしてよ

聞き飽きたアルペジオに、終止符を打て
奇麗ごとだなんて、すぐに偶像崇拝
そうさ、フィードしてくれ

あと数歩先なんだ
急降下
笑っちまえ

まだ死にたくないんだ
だから殺してくれよ
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# by haccax | 2006-10-06 19:00 | 飴玉(短編)

倶楽部

「それでは、これから倶楽部活動をはじめます」
部長の鈴木尚人が静かに言った。
鈴木尚人というのは、僕だ。
「起立、礼」
副部長の小林瞳が続く。
その言葉に促されて、集まった部員が一斉に起立し礼をする。制服の擦れあう音だけが響く。
締め切った美術室は所々カーテンの隙間から光が零れている。いや、寧ろそこだけ闇が裂けているといった方が正しいかもしれない。漸く闇になれた目で、やっと横長のテーブルと長イスがずらりと教室の前から後ろまで幾つか配置されているのがぼんやりと分かる程だ。備え付けのエアコンは準備室から絵の具のにおいを運んできているらしく、酷い日にはニスや木工用ボンドのにおいまで混じっている。
僕は部員全員が着席する音を聴くと、赤い懐中電灯を付けて手元の名簿を照らした。
上からひとつずつ読み上げ、点呼する。曜日ごとに振り分けされたその名簿には、二重線で消された跡や太い字で書き直された名前が数え切れないほど存在する。僕はそれを、一から読み上げるのだ。

人は、誰しも仮面を被っているものである。

この倶楽部は、その仮面に喰われた生徒たちの謂わば教会のようなものなのだ。
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# by haccax | 2006-09-30 15:10 | (倶楽部)

雨傘
叩く粒
心地良い
長袖

肌寒いね
隠せるから
青い血管
不健康な肌
浮いてるよ

受話器から誰かの声
僕の名前すら知らない
ねえ言葉の破壊力
僕は君をいとも簡単に壊せるよ
せめてもの僕のヤサシサ
長くて冷たい沈黙
一方通行の闇

澄んでいた
嫉妬した
手に入れたくなった
言葉をつくった
取り繕った
偽った
君は笑った
手に入れた
つもりになった

ゲームオーバーなら
またリスタートすればよかった
リセットボタンを押そうとした
案外愛着があったみたいだ
愛情のかけらもない玩具
手放したくないだけの我儘
僕は使用済みの所有者

灰汁を取るように
僕の言葉の欠陥を拾った
消えればいいのに
僕のツクリ笑顔を見抜くなんて
消えればいいのに
消えればいいのに
消してしまえばいいのに

僕が黙っているあいだ
君は推測しかできない
消えてしまえばいいのに
悪夢巻き込んだ妄想は毒
すぐには居なくならないよ
残像を残して
消えればいいのに
消えればいいのに
消してしまえばいいのに



ねえ
推測のなかの僕は、まだ元気ですか
君に答えを教えてますか

乾ききった赤眼が
震えながら僕をまだ見てる
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# by haccax | 2006-09-01 16:02 | 飴玉(短編)

しあわせ

ため息ひとつ
幸せが逃げるなら
ぼくにはもう
幸せなんて持ち合わせてない

ああ
どうやって泣くんだっけ?
風呂場でひとり声を殺して
水道水の粒に涙が溶けてくよ
汚い水がジーンズに染み込んでくよ

ああ
そうやって逃げるんだっけ?
布団のなか爪で引掻いて
暖かい毛布も血みどろだ
耳を劈く声のフィルターなんだ

ため息ひとつ
幸せが逃げるなら
ぼくにはもう
失うべき幸せなんて残ってない

君の唇から零れた幸せ
ぼくにはただの薄っぺらい皺寄せ
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# by haccax | 2006-08-31 21:45 | 飴玉(短編)