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置手紙

お久しぶりです、皆さん
もうそろそろ、桜も散り始める頃ですが
お元気でしょうか
僕は、元気です

この記録を始めてから
今年の夏で何年目になるのかな
もう随分昔のことだから
とうの昔に忘れてしまった
長い間留守にしていたけれど
この家の玄関先には雑草一つ見当たらない

僕は月並みに高校を卒業して
月並みに大学へ進学した
月並みに友達も出来て
月並みに忙しくなって
月並みの毎日を送っています
悪くないかなって、思う
けど、やっぱり昔と似た空気を吸うこともあるんだ
そういうときの空気ってさ
瓶に詰めて置いておきたいくらい、切なくて
とても心地いいんだ

中学の時の僕は、本当に閉じこもって
外面のいい優等生だった
教師に媚びを売ることもなく
説教喰らうこともなく
陰口叩かれることもなく
いつも校庭の緑色のネットの、向こう側の
ビルの遠い林を呆然と眺めてた
目立たないように息を潜めながら
省かれないように声を張り上げて
どこか冷めた目しながら、炭酸水啜ってた
高校生になれば何か変わるって、
適当なこと考えながら保健室行って
適当に温度計を弄って三十七度突破させて
誰も居ない路地裏とか、通って帰った
食べ残してた弁当のおかずとか
道端の、黄色い眼をした黒猫にあげて
カバンを椅子にして座り込んでた、な

高校生の時の僕は、凄く不安定で
丁度そのときに、この隠れ家を作った
最初の夏休みが、僕は消えかけた最初の日
真夜中にピアノの上に白い粒を広げて
何度か寝室を往復してから涙が止まらなくて
うるさいサイレンの音でぼんやり、頭が起きて
担架の上なのか、視界が凄く揺れていた
直ぐ隣に点滴用の透明なパックが吊るされていて
水色のカーテンの向こうで白い人が動いてた
白いシーツがあって
右腕から点滴が外れてしまって溢れた僕の血があった
気付いたら青い顔した女の人が駆けつけて
何人か集まったと思ったら、映像が乱れて
また気付いた時には、母がおつりを財布にしまっているところだった
何度も思い出したブツ切りの記憶
夏休みが明けると僕は、
何事もなかったかのように学校へ行き
宿題を提出し、電車に揺られて帰った
誰一人として
「僕が居るということ」に違和感というものを微塵も感じずに
いつもと変わらない日々が過ぎる
いつもと変わらない位置に、教室に、出席番号に、あの席に、僕が居て
彼らの脳内で、僕は平凡に生きている

卒業した僕は、
まだ、ここを卒業出来ないでいるみたいだ
そんなに悲観することはない、
誰だって落ち込むことはある、とか
そんな前向きな言葉が欲しい訳じゃない
俯いているからって前を向かなきゃならない訳もない
じゃあ、なんなんだって
お前は何が言いたいんだって
人は僕を、天邪鬼とか、ヒネクレとか、ヘソ曲がりとか
言うかもしれないけど
そんなナマエなんて、僕には、関係ない
誰か僕を優しいとか冷たいとか、言おうが
僕は、僕を、僕以外の何者にも思えない
ただ、誰かの幸福なお話と記憶に埋もれていくなかの僕は
恐らく誰かが改札を抜けたその時に、空虚に笑い
恐らく誰かが手を打って笑ったその時に、深呼吸をする
僕はその度にそのシーンを記憶して
忘れないようにこのファイルに綴じるんだ

長い間、留守にしていて、ごめん

僕は 帰ってきたよ。
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by haccax | 2007-04-08 00:25 | 飴缶(文)