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庭園物語(3)

僕のお庭には、
時たま庭師さんがいらっしゃいました。
曜日ごとに女性の方であったり年配の方であったりしたので、
それは真に多様な方々がそれぞれに思い思いお庭を弄っていらっしゃいました。
大半は若い男性の方が日替わりで訪問なさったので、
必ずお母様がスリッパを鳴らして玄関までお出迎えなさり、
お二人でお庭のウッドデッキに腰掛けてキングサリを指でつまむ仕草などは、
表しようもなく愛らしく幼い様子だったのだけれど、
いつも決まってお母様は外側から家の鍵をしめて出て行かれるので、
僕はその男性の手に触れているキングサリの匂いもよく知らないまま、
やはり窓の内側からぼうっと眺めているだけで、
大変詰まらないものでありました。
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by haccax | 2006-07-31 12:59 | (庭園物語)

庭園物語(2)

僕のお庭には、
それは大層生き生きとした草原が見事に広がっておりました。
何度か僕のお友達が僕の家へお遊びにいらっしゃったのですが、
みなさん口を揃えて素晴らしい、とか美しいと仰いました。
僕はその時だけ少し嬉しい顔をするのですが、
本当は一面の原っぱは緑色がただ続いているだけで、
大変詰まらないものでありました。
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by haccax | 2006-07-29 01:02 | (庭園物語)

起きなさい、と何度か二階から叫ぶ声が聞こえた。
僕は適当に「起きてるよ」と叫び返して、枕元にあったリモコンでクーラーの電源を切る。
ついでに左足を伸ばして扇風機の足を叩くと鈍い音がして、煩い羽音も止まった。

何の音もなくなってから僕は目が覚めた。
喧しい方が起きる気が失せるんだ。
時計の針はまだ午前中を指していて安堵する。
窓の外から、ヘリコプターの上空を通り過ぎる音がする。

ニャーニャー鳴く猫と水面を尾びれで弾く金魚にエサをやり、
僕はカラカラの口と胃をお茶で潤す。
曜日の感覚はあるくせに、日付が全く分からない。
もう七月が終わるという。
まだ梅雨が明けぬという。

昼下がりに電話があり、
宅急便かと思って出ると母だった。
朝御飯は食べたのか、冷房症にはなっていないか。
そんなことだった。
昼間に僕がいることをとても珍しく思ったようで、
僕が家に帰ってきたことを実感したのだという。
もう、
あの日から一ヶ月が経とうとしている。
時間の長さや早さを言葉で表すのは、
本当に難しいものだ。


人間は言葉によって愛情や感情を削られている、と
誰かが言った。
そしてまた誰かが、
100の言葉しか知らぬ人間は、100の感情表現しかできぬ、
と言った。
つまりその行動はまるで、猿程度だと。

喩え彼らの言葉が、僕にとって1000分の1であっても。
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by haccax | 2006-07-28 14:56 | 飴玉(短編)

庭園物語(1)

僕のお庭には、
それは色々な種類の草木が生えておりました。
けれども僕は何ともなく硝子窓の内側から眺めているだけでして、
カチコチという振り子時計の音だけが響いて、
変わったことといえば、
毎日お天道さまとお月さまが交互に顔を出すだけで、
大変詰まらないものでありました。
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by haccax | 2006-07-28 14:09 | (庭園物語)

散歩

おなかが減ったよう
だれも喋らない部屋は
明るいオヒサマのほうを向いていないから
すこし涼しいとさえ思う
食い散らかした駄菓子の袋
脱ぎ捨てて丸まった昨日の服
あげすぎた水面に浮かぶ金魚のエサ
潰れたカナブンに寄ってたかる蟻の行列
蝉はまだ鳴かず

キイと自転車の急ブレーキの音
隣の奥さんの愛車を車庫に入れる音
今日は
いや、今日も
小学生の甲高い声はない
三時を過ぎたというのに不思議な気分だ

山奥に出かけた
近いからといって
切符さえ買わないような場所
白い肌で太陽光を反射してる木偶の坊とか
虫食い葉のあいだから洩れた光苔とか
心がしゅんとして
とても静かなんだ

昼下がりの下り電車は
みんなが居眠りをしていて
何時かの映画のワンシーンのように
其の侭、何処か遠くへいけそうだったよ

とても嗄れた声で僕は
いつか
そう話すんだと思う

半世紀とすこし後の僕へ
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by haccax | 2006-07-25 15:58 | 飴玉(短編)

チェック・メイト

一歩踏み出した階段
意味もない
やっと拾い上げた筆
意味もない

逃げたいのに立ち上がれない
黒椅子が僕を追い掛け回す
ゼブラのチェス・ボードの上
「僕」という名の存在

お日様とお月様
お話し合いをして
半分ずつ僕を照らす

僕もそれに倣って
半分ずつ僕を分けて
影と一緒に歩く

届くはずもない
あの子からの手紙
僕はまだ待ってる

書くはずもない
あの子への返事
僕はただ待ってる

空虚な箱庭
そこに何を夢見るの
廃墟に残された月
あと少しで落っこちる

僕は何を待ってるの
僕は何を持ってたの

チェック・メイト
僕は動かないといけない
走り出さないと
逃げないと

子守唄のオルゴール
止まるのは
もう少し先のお話
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by haccax | 2006-07-25 08:55 | 飴玉(短編)

妄想庭園

ああ、
手放したくない箱庭。
拙い言葉。
意味のない感情。
音のない羅列。
声のない叫び。

ああ、
手放したくない箱庭。
まどろむ蝶。
灰色の平原。
花の咲かない野原。
満たされた幸福。

あと少しで、
尽きてしまう。
目を離したすきに、
崩れ落ちてしまう。

知らない間に何時
もう三時
朝御飯は忘れてた
どうするの
昨日の空は大荒れ
今はどう
カーテンの外薄暗い
馴れ合うだけの世界
それはもう
いつの話だったっけ
怯える前に消えてゆく
元のように失って
手の中にあったものは
なんだったっけ
それさえ
それでさえ
思い出せない
ああ、
もう手遅れなんだ。


あと少しだけ、と

唇が微かに動いたけれど

どうやら僕は、

声さえ忘れてきてしまったみたいだ


ああ、
愛しい箱庭、
美しい箱庭。
もう、
そこには何もはいっていない
置き去りの空っぽ洞窟。

僕は、
ただ掘り進んでいただけ。
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by haccax | 2006-07-20 15:40 | 飴玉(短編)

4号室のてんごくへ

サヨナラすれば、
少しは気が楽になるだろうか。
少しは恋しくなるだろうか。
少しは興味が沸くだろうか。

どれも疲れそうなので、
僕はやめておいた。

キヲクをキロクすれば、
少しは勇気が出るんだろうか。
少しは癒されるだろうか。
少しは愉快だろうか。

やっぱり気疲れしそうなので、
僕はやめておいた。



でもサヨナラしてキヲクをキロクしないと、
余計に気疲れをするから、
僕はサヨナラする。
僕はキヲクをキロクする。




しにたいのなら
しねばいいんだ
くちひげのかみさまが
てんごくにつれていってくれるのなら
はくいのてんしが
てんごくにつれていってくれるのなら
たえることなど
くるしむことなど
ひとはりで

どうぞ
ごじゆうに
4号室のてんごくへ
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by haccax | 2006-07-19 14:04 | 飴玉(短編)

雨天決行

明日雨が降ればいい、と笑った
てるてる坊主を逆さに吊った
僕は傘をもたず
外へ出た

騒がしい自動車の音さえ
雨のしずくが吸い込んで
僕は一層気分がよかった

あの塀に
手が届くまで
あと少しだけ

ガンバレ、と言いながら
あの女は徐にライターを取り出して
うまそうに煙草をふかした
それから携帯電話の呼び出し音が鳴り
可笑しそうに電話をした
去年の夏のはじめ

雨がもっと降ればいいのに
雨さえもっと

雨天決行の花火大会
小さな線香花火は
ぽとりと頭を落とし
ジュッと音を立てて
水底に沈んでった
去年の夏のおわり
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by haccax | 2006-07-19 13:38 | 飴玉(短編)

図工

愛想笑いが上手だね、と
愛想笑いをされたので
僕は仕方なく
愛想笑いを返した

それで笑えたならいいよ
僕も笑えたなら

ああ、
材料が足りないんだ。

意味の無い工作
僕にはそれが一番向いている



もう創ってあげないけれどね。
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by haccax | 2006-07-19 13:36 | 飴玉(短編)