<   2005年 10月 ( 8 )   > この月の画像一覧

ジャーニー

家出をするなら断然、夏がいいに決まっていた。
いくら太陽が暑くたって、焼死するわけじゃなかったから。
ビルに寄り添って歩いて、できるだけ長くて太い日陰を選んでいけば、
余計な水分の蒸発を防ぐことが出来たんだ。
それでもセミの声が耳をつんざいて、思考を熱くさせた。

ショー・ウィンドウに飾られたものを買う趣味がなかった僕は、
本や楽譜以外に金を費やすことがなかった。
必要なものがあれば、とことんケチをする。
それか、年中行事まで覚えていれば、そこで。

キレイなカバーに包まれた新刊と売り文句の本屋を通り過ぎて、
樹木のようにシワの刻まれたジイさんの、やけに背が高い棚の古本屋に通った。
でも、その日は国民的祝日だったから、
古本屋は、どこかの暴走族がスプレーで描いていったシャッターで閉ざされていて、
ジイや古本のカビ臭いにおいは、嗅げなかった。

上空はるか遠くをヘリコプターが泳いでいた。
そこまで飛べるわけもないのに、少しだけ人差し指をのばしてクダラナイ夢を投げた。

つまらなそうに俯いて歩いた、
ソラは奇麗に笑っていたんだ。
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by haccax | 2005-10-31 09:33 | 飴玉(短編)

堕落論

ディスプレイのむこうの女が笑う。
ニタアって効果音が似合いそうなくらい、怪談話の口裂け女っぽく笑う。
僕はそれを、視界にまつげが邪魔するほど半目で見てるわけだけれど。

友人が弁当の時に、僕がしまい忘れたノートに落書きしたサイトのアドレス。
URLバーに入力した結果が、これ。
ディスプレイのむこうの女。
黄色と赤の文字が、エンドレスで高速反転してちかちか光る。
あからさまに目に悪そうなバナー。
あからさまに頭の悪そうな宣伝文句。
プラスチック・ルアーに釣られるブラック・バス。

電車にゆられながら腹にパンチを食らった彼の、カバンに隠された週刊誌。
本屋で中年男性が立ち読みしているような週刊誌。
土手にちょうど半分ずつページを開きながら雨に濡れてパリパリになった週刊誌。
大人向けの。
オトナムケノ。

数人がギャアギャア騒いで、本気でK-1の真似事を始める。真後ろの婦人の眉がつりあがる。
やめろよお、と説得力のない声を吐きながら鋭いアッパーカットを食らわせる。
迷惑そうな顔を一度向けて携帯画面に目を戻す、編みタイツの若い女性の無言。
全身黒スーツを着て、しっかりムースで固められた七三分けの、上司と部下のビジネス会話。
化粧と香水の臭いがきついおばさん団体の、雑誌で読んだような世間話。
世の中スタックしているなあ、と澄まし顔でシェイクスピアでカバーした楽譜の音階を読んでいる僕。
黒いランドセルを背負った小学生は、長方形の窓のそとの風景に流されて、目が泳ぐ。

誰かが汗を流して埋め固めたコンクリートを、だるそうにスニーカーの踵をこすって歩く。
笑えないわけじゃないし、泣けないわけじゃない。
これといって不自由はないし、かといって自由なわけでもない。
見極めようとしたいのなら、勝手に、気が済むまですればいい。
誰ひとり、構いやしない。

文字一つの意味さえマトモに知らない脳みそが、どれだけシャッフルしたって黒い点の集まり。
言葉ひとつで全てが崩れてひとつが産まれ、
言葉ひとつに全てを賭けてひとつに対抗し、
多分そうやって人間も生きている。
推測で、生きている。
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by haccax | 2005-10-14 06:22 | 飴缶(文)

あめ

ぽつん、ぽつんと あめが ふって

丁寧に手入れされた薄紅のほほを

するりと、ころがりおちました

だらん、と垂れ下がる片方の手に

あめが しっかりとにぎられていて

それを美味しそうに食べました


ぽつん、ぽつんと ひとり ぼっち

火照った涙を何処に忘れてきたか

ひらり、まどろんできえそう

色素の薄いしろい肌がはじいて

さだまらない めがおよぐ

血のように赤い唇で笑いました
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by haccax | 2005-10-13 07:01 | 飴玉(短編)

なつやすみ

連休がきた。
僕のすることは限られている。決まっていた。

新幹線が到着する30分前に、駅に着いた。
公衆電話から発信。電波が悪いのかプツプツ切れる。
のぞみ43号?分かった。
改札前でポツンと突っ立って待つ。ハッキリ言って、退屈。
目の前にオバさんが乱入して前が見えなくなる。邪魔。
足は動かさないで体を傾けて、改札のさきを見る。
のぞみ43号が無事に着いたみたいだ。
スーツ姿の人とか家族連れがわんさか出てくる。
で、大半が改札で引っかかる。駅員ダッシュ。
見てたら、改札のおくから見覚えのある顔がノコノコ歩いてくる。
着いたんだったら、電話、しろよ。
会ったら抱きつくって言われてたから、少し後ろに下がりつつ会釈。
なんだよ、無駄な期待してんじゃねェよ。

JRのホーム、特にこれといった会話もなかった。
ただ目の前にでかでかと表示されてる焼肉屋の看板を、凝視してるだけ。
ええ、別におなか減ってないって。
黒地に赤字で牛角って書いてある看板を、僕は何回見たんだろう。
一番初めに来たときは、1番線と2番線の違いすら分からなかった。
今じゃ、足が覚えてる。
そんなことを考えていた。
横からの視線が、ヤケに熱くて痛かったのも知ってた。
気付いたら、自分の背中に他人の手の感触。どういうことだ。
すぐに、電車がまいりますってアナウンスが流れて、僕らは離れた。

電車の中でも、状況は同じだった。
僕は相変わらず外を見ていたけれど、やっぱり視線が痛かった。
移動中、歩いている時でも何ら変わりはなかった。
すこし歩調を速めてみても、すぐに肩を並べて歩いている。
一歩踏み出すたびに僕の右手首をノックする、誰かさんの左手。
僕は、ずっと、居留守。

水族館に行くことになってた。計画通りに。
行きの電車内は十分後発車らしい。まだ時間があった。
誰もいない車両に、二人。
誰かさんは、これがファーストになるんですけど、と笑った。
僕はひそかに、もう何度も触れ合った唇では、初めも何度目もないな、と嘲った。
そうこうしているうちに、視界の端で血の気のおおい黒い塊が動いた。
僕はただ、さげずんだ目で誰かさんを見た。悲しい眼を向けた。
唇が、触れ合った。
誰かさんの最初のキス。
僕の汚れた最初のキス。
誰かさんは相当な度胸があるらしいな。
どこまでも汚そうとしていく。
僕の舌は、頑なに拒んだ。
電車が発車した。
左腕がジーンズの間に這っていた。
痴漢プレイがお好きらしいよ。
勝手にすればいいと思った。

買おうとしていた入園料を、自販機で二人分支払われる。
僕は自分の代金だけピッタリ小銭で、誰かさんのバカでかい旅行バッグに投げ込んだ。

館内は暗いからって、少し調子に乗ってたのかな。
ライトの当たっていない暗闇で、何度も強引なキスをされた。
まるで僕は、水槽のなかの魚みたいだった。
歯を噛み締めてぽっかり口を開けていただけ。哀れんだ瞳。
僕の眼の中の海は、とても静かに闇を吸収してった。

その日、誰かさんが僕の家に泊まった。
早く寝よう、おやすみなさい。
誰かさんは酷く眼でなにかを訴えていたけれど、僕はなにも見なかった。
ウーロン茶をキッチンに流しにいくと、手招きされる。
今日の反省をするらしい。ぶっちゃけ、どうでもいい。
あぐらをかいていた足が痺れてきた。
僕はもう戻るね、言い終わる前に抱きしめられた。
更に僕の中の温度は冷えてく。悪寒がして、鳥肌がたつ。
ジーンズをひきずり下ろされる。既に誰かさんは息が荒い。落ち着け。
僕は落ち着きすぎてた。凍りつく前みたいに寒かった。
舌と指が、艶めかしく僕を触る。
両肩にひっかけられていた両脚が、汗ばんでくっつく。
すこし動くたびに、ゆっくり温度が下がってくのが、手に取るように分かる。
まだ、何も終わってなかった。僕は始まらせたつもりもなかったけれど。
で、最終的に疲れ果てて寝た。
誰かさんのケアなんて知らない。
とにかく、寝た。
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by haccax | 2005-10-12 06:46 | 飴箱(長文)

フロム、ベッド、トゥー、トレイン。

携帯の電子音。
僕のピアノの音。
超高速の「ネコ踏んじゃった」が、エンドレス。
煩くて、でも止めたらまた寝てしまうから、仕方なく身を起こした。
二段ベッドのハシゴを、寝ぼけながら降りる。
よく滑って落ちないなあ、なんて、ちょっぴり自分で感動する。

僕んちはマンションだから、廊下が狭い。
だから、よれよれ酔っ払いみたいに歩いてると、洗面所とかトイレとかのドアにぶつかる。
ぶつかりながら、前進。

十歩くらい歩くと、リビング。
晴れてれば日の光がメチャクチャ眩しい。目、閉じてても瞼が透けて入ってくるし。
でも、いまは梅雨だから、空はあいにくの曇り。
僕の寝起きの口の中みたいにシットリネットリしてる。

リビングから左折すれば、タンスとパソコンとオモチャ。
妹の散らかしたまんまのレゴのブロックが裸足の裏に刺さったり、パソコンやら無線機のパーツに引っかかって転んだりするから、用心して通らなきゃいけない。

気付いたら僕はリビングに戻っている。
右手には、一口かじってあるミニ・ピーナッツパンを持って。
しかもバッチリ、制服を着てる。全部チャックもボタンも閉めてある。完璧に。
それから、タンスと丁度向かい合う位置にあるテレビをつける。
チャンネルは、1chでないとダメ。NHKじゃないといけない。
目覚ましもダメ。おはよう日本でないといけない。
おねえさんとおじさんが、交互にニュースを伝えていく。
大きな背景のディスプレイが印象的。外を見なくても、今日の天気がわかるから。
ほかは何も、見てるようで、見てない。
きょうは傘もっていきなさいよ、って、思い出したように母さんが言う。
画面の右上に表示されてる時間をみて、僕は動く。

トイレに行こうと立ち上がる。
で、思い出す。のどが渇いてたってのを。
舌と歯と唇が、接着剤でくっついたみたいになってる。
口の中にミニ・ピーナッツパンの残りを放り込む。
で、ムシャムシャしながら、台所へと這っていく。
洗われたばかりのマグカップを手にとって、冷蔵庫のうえから二番目を開けて、氷をカップですくって、ヤカンを傾けてお茶を注ぐ。氷が、パキパキ心地よい音をして、清々しく爽やかに割れる。それを一気に飲み干して、溶けてヒトツにくっついた氷を排水溝に捨てた。
ゴトン、と音がして、黒いおっきなくちが、白い塊をのみこんだ。

NHKのおねえさんを見る。
なんか、今日は、気合はいってないみたい。痩せてるし背高いからなんでも似合うんだけど。
また、鳴りだす。
僕のヘタクソな「ネコ踏んじゃった」が、うるさい。
母さんが、ホラ何してんの早く行くよ遅刻するよ、っていう。
なにをいってるんだろう。少し可笑しくなる。遅刻するわけ、ないじゃん。
僕、いちばんに学校につくもの。

母さんに、駅まで車で送ってもらう。
いつもいつも、自転車でいきなさいよ、って母さんはいうけど、毎朝送ってくれる。
多分、相当な心配性なんだと思う。 ギア付きのごっつい泥んこチャリなら持ってる。
車をおりて改札通って、ホームで電車を待つ。
いつも待ってる場所には、二つ結びのジョシコーセーが立ってる。たまに。
僕、そいつニガテ。だってチラチラ見てくるんだ。髪の毛さわってるし。ニガテ。
スカートは、太ももあたり。太ってるわけじゃないから、別に見苦しくはない。でも、見たくはないのに視界に入るのが、更にイヤ。いつも、僕の目の前の座席に座って、ソックタッチで靴下ひっぱって、真正面むいて、そのまんまの姿勢で寝る。だから、何見てるんだよって思って顔見ると、寝てる。
そのときの顔といったら、とても、間抜け。

一駅すぎたところで、そいつ、席を移動する。ひとつ左の列に。
最初からそっちに並んで乗って座ってればいいのに。
ときどき聴こえる、喋ってるときの声が、あまりにあの間抜けな顔と合致しなくてまた可笑しい。
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by haccax | 2005-10-10 10:36 | 飴缶(文)

モーニング・グレイス

ああ、まただ
気付かない間に
右上腕に青紫の痕

人目に触れるのを
出来るだけ避けた
背を向けて
鏡に映してみれば
肩甲骨の黒い点
すこし色を濃くして
消えかけた幾つかの痣が
肌の色に溶けていた

目が醒めれば
世界は横たわっている
しばらく止まって
瞼をゆっくり閉じる
息をしずかに吐きだして
電池の切れた時計に目をやり
左手首を隠すように巻かれた腕時計を
すこしだけ緩めてから
ほんのすこし痛みが走った右腕をかかえる

カーペットをつま先で歩き
軋む床の位置をおもいだして避けて通り
窓に囲まれたバルコニーを見下ろし
窓から二本の日焼けしない脚をなげだして
雨につまさきを濡らし
非常階段をおりてきた猫に挨拶する

身震いをして飛び散った水滴は
不健康なガーデンに落ちていって
ベッドの軋む音がリビングに響いて
僕は身を翻してソファに横たわる

しずかな優しい朝
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by haccax | 2005-10-10 08:48 | 飴缶(文)

旋律的短音階

ああいうふうに
癒せたらと、おもった
数え切れないほどの痕を
だいじそうに抱えてる彼女が
とても愛しくおもえて
目を細めてツメをとぐ

また僕は、どこかとおくへ
なみだを忘れてきてしまったらしい
擦り切れたジーンズのポケットに
おやゆびを引っ掛けて歩く

四階の音楽ホール
だれもいない空間を震わす
ほそくて白いゆびが奏でるスケール
ひろがりの途中
思わず息をひそめた

焦点のさだまらない視線のさき
僕らだけがみえるドットの集まり
指をのばしてもすり抜けてしまう

とうめいな空気のなかへ
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by haccax | 2005-10-08 07:03 | 飴玉(短編)

静止

一瞬めまいがした
肺はとまっていて
その数十秒だけは
浮かんでいる気がした

なんて生きにくい世界だろうと
少しだけ神様を呪った
白と茶のハトが笑った

晴れた夜には
空を見ていたはずなのに
曇った僕の目には
空さえ映せない
灰色のコンクリート
地下鉄のドブネズミ
洗面所のホール

くしゃくしゃになったスケッチブック
消せればいいのに
消しカスだけゴミ箱に溜まる
煙を吐くマンホール
割れたスケートボード

イヤホンを引っ掛け
ナナメ45°に目を伏せ俯いて
タオルを濡れた髪にかぶせて
パーカーのポケットに手をつっこみ
フル防備の準備完了

響く妹の幼かった声
すこし大人びて
通話口を押さえた

音楽に掻き消された声
無声映画みたいに
くちだけが忙しなく動いた

僕はそうやって誰も居ない空間に向かって
目を凝らしもせず突っ立って考えているんだ
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by haccax | 2005-10-04 07:28 | 飴玉(短編)