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人間

飾り付けるような単語はない。
うわべだけ撫でる言葉もない。
誰かに見せる笑顔もいらない。
自分を映す鏡はない。
そこに欲はない。
死あるのみ。

生き物から吐き出される音。
生ぬるい血をめぐらせて唇を動かし息を吐いて出される。
生々しい単語を羅列してヒステリックに叫ぶ。
それが母。

ブラウン管と向き合って無言。
ブレーカーを落とせばただ座って真っ黒の画面を見つめているだけ。
ブタ小屋だのカスだの罵って都合が悪くなれば無反応。
それが父。

なにかを抱きかかえて独り言。
なにもしらないまま状況を飲み込めず愛想笑いで誤魔化す。
なんども人の表情を窺っては自分だけの空想話を喋る。
それが妹。

意味のない言葉の羅列。
意義を見出せずマニュアルを読んで卵の外壁を固めていく。
意識がなくなれば粘土でできた来損ないの結婚記念品。
それが僕。

それは辞書で調べたような単語。
そこになにか自分を提示するように静かに確かに侵食していっている。
それら全てが無知の生んだ思い込みと錯誤をリピート。
それが外。
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by haccax | 2005-06-25 21:16 | 飴玉(短編)

二○○四年十二月二十九日

八月の自殺未遂から、数日が経った。
僕は、何週間ぶりかに学校へ行った。
前に僕がいたスペースを埋めるように、ほかの誰かが座っていた。
でもそれも数日で、すぐ僕はその役に戻った。
夏休み明けということもあって、ガタガタ忙しかった。
いろんな先生のところへ、課題の提出に走った。
それが何日か続いて終わると、担任に呼び出された。
適当に書いた評論文が、高校一年生でただ一人入賞したと。
これは内密に、と忠告された。
家に帰って母に話すと、とても嬉しそうにしていた。
嬉しそうに父に話していた。
父はパソコンのディスプレイを見ながらキーを打っていた。
多分、母の話なんか聞いちゃいなかった。
三日ぐらい経った日に、校内放送で作文コンクールの受賞者を発表していた。
高校生の部。
僕の名前も読み上げられた。
クラスの全員が僕を見て拍手した。
僕は上手に笑って応えた。
最優秀賞は三年生だった。
最優秀賞の人の作文が読み上げられた。
擬音語ばかりで、途中から聞き飽きて寝た。
放送が終わると休み時間のチャイムが鳴った。
僕の周りに人だかりが出来る。
評論文をカバンから出すと、見る間にひったくられる。
教壇から、担任が手招きしている。
席を立って一言断ってから担任の前に行く。
評論文で良い作品がなかったこと。
その中でみつけた僕の作品が、一番まとまっていて読みやすかったということ。
よく調べていて感心した、と校長も言っていたということ。
ひそひそと話す担任に礼をして、ありがとうございます、と言う。
担任が嬉しそうな顔をして、教室を出て行く。
僕の机にはまだ人の塊ができている。
教室を出ると隣のクラスの顔見知りに何度も声をかけられる。
困ったように笑いながら、ありがとう、と答えて歩く。
廊下の突き当たったところにある重いドアが、きいきい鳴きながら開く。
僕はこの音が好きだ。
外は相変わらず雲で覆われていて、でも雨は降らないそうだ。
水飲み場の、生ぬるい水道水が顔にあたる。
しばらくそうしたままの姿勢で停止する。
鼻と顎から、何度も何度もおおきな水滴がこぼれる。
予鈴のチャイムが小さく聞こえる。
右腕の袖で拭って、小走りで教室に戻る。
起立、礼。

帰りは五、六人で帰る。
電車の中で、長期の休みはどうしたのかと訊かれる。
ただの風邪だと話すと、ホントに弱いなと少し笑われる。
すかさず僕はテレビの話を振る。
昨日つけて一分程度で消したテレビの話。
すぐさま話題がテレビに転換する。
僕は安堵する。

家に帰ってパソコンの電源を入れる。
起動画面で止まったパソコンに、パスワードを入れてやる。
エンター、起動。
僕はまた安堵する。
メッセがつくと、数人から珍しくメッセージがきた。
内容は覚えていない。
ただ時間だけが過ぎて、父が帰ってきて、いつもどおり慌てて電源を切った。

「死ぬな」
なんども繰り返されたその言葉に、ほとほと厭きれてきた十二月。
自殺理由?
今度はよく覚えていない。

十二月二十九日、二回目の自殺未遂。
前回の自殺未遂によって、母があらゆる薬を処分してしまったらしい。
キッチンの戸棚にも収納椅子にも入っていない。
でも僕は持っていた。
母に気付かせない為に、包装はすべて捨てていた。
残ったのは単体のみ。
白と緑のカプセルや、真っ白で真ん中に区切れの線が刻まれている白い錠剤など。
世間的には親子喧嘩と呼ばれるヤツだった。
僕の日常が起こった。
前と同じ時刻。
数分過ぎた。
パソコンは既に電源を切っている。
いまさら付ける気も起こらない。
携帯は行方不明。
家の電話からかけて探す気も起こらない。
ざらざらした手触りのサブバッグを開く。
無造作に詰め込まれた薬。
クズか。
確かに僕はクズだ。
声に出していわれるまで気付かなかった。
何度も連呼された。
母の声はもう聞こえなくなっていた。
出来損ないなのですか、と問うと、そうだと答えられた。
結婚記念品ですか、と問うと、少し間があいた。
いちいちクズに返事するのも面倒くさいらしい。
僕はすっかり冷えてしまった。
眠くもないのにベッドで横になった。
寝静まったころ、僕は動いた。
キッチンでコップに氷を入れて水道水を注ぐ。
足が絡まって倒れそうになりながら歩く。
自室に戻ってベッドに倒れる。
くちに冷えた水を含む。
横に顔をむけたままだったので、くちの端から水がこぼれる。
何種類か混ざった薬を何度かわけて飲む。
前のように震えはない。
一連の動作に慣れた。
一度だけで。
翌朝は昼過ぎに起きた。
胃が空洞のようだ。
空洞を抱えながら起き上がる。
途端、激しい腹痛で突っ伏する。
頭痛が揺れる。
ベッドから這いずり出る。
部屋の電気をつける。
僕のスイッチも入れる。
どうやら正月は田舎へ行くらしい。
僕を抜かす家族全員が、慌しく準備をしている。
あんたも準備しなさい、と言われる。
中型のスーツケースを部屋から引きずり出す。
何度か洋服棚と自室を往復して、服を詰め込み終わる。
昼飯、と呼ばれ食卓に向かう。
ミートソースのスパゲティに馬鹿みたいな量のパルメザンを振りかけて食べる。
胃に詰め込み終わると、先ほどの空洞感は少し収まる。
自室に戻る。
吐き気。
繰り返す。
母が顔面蒼白でトイレの前、僕の後ろに立っている。
あんた、またやったの!
金きり声で話す。
そのうちどこかへ行って戻ってきて、塩水を飲まされる。
指をつっこんで無理やり吐く。
スパゲティが勿体ない。
胃に詰め込んだばかりなのに。
吐くものがなくなってもまだ吐き続ける。
そろそろ飛行機に乗るために家を出るらしい。
タクシーが来るまでベッドで倒れる。
気がつくと数十分経っていて、タクシーに乗るために立ち上がる。
立ちくらみ。
眩暈。
空港へ向かうタクシーの中でもまた吐きそうになる。
吐くものがないってのに。
我慢して一度しか吐かずにいると、意識が遠のく。
空港に着くと、母が案内センターのようなところで何か話している。
しばらく待っていると、案内人が車椅子を持ってくる。
僕は毛布だの何だのに埋もれながら、車椅子で移動。
水分を取ると、随分楽になる。
飛行機に乗り込む。
イヤホンを耳につけて、邦楽を垂れ流しながら眠る。
プツプツ途切れる意識のなかで、食事が何度か運ばれる。
牛がいいか、豚がいいか。
サラダがいいか、ポテトがいいか。
何度か吐き気。
飛行機が目的地の空港につく。
だいぶ具合に慣れてきた。
また車椅子が用意されている。驚く。
空港の内科病院に案内される。
診察。
筋肉注射。
点滴。
一時間程度横になっててください、と言われる。
うすい水色のカーテンや、少し汚れた白の天井を眺める。
時々ナースさんが点滴のパックの減り具合確認や、パック取替えにやってくる。
パックから一滴一滴おちる水の粒をみた。
僕はこれによって生かされる。
一滴一滴、ポトリポトリ。心拍数のようなリズムで落ちていく。
パックの残量が少なくなってくる。
ナースさんが取り外す。
針を抜く。
かなり長い時間抑えていた。
前のように、大量に血はあふれなかった。
ナースさんがパックを片付けおわり、がらがらと移動させる。
僕が吸収した、空っぽのパックを見送る。
病院の外に出ると、前に来たときよりも空港のイメージが変わっていた。
母の実家にいくと、従兄弟がいた。
何よりも変わったのは、その従兄弟だった。
茶髪のソレは猫背になりながら、テレビでK-1を見ている。
同い年の彼は、聞いた所によるとボクシング部に入部しているらしい。
彼の妹が、お兄ちゃんテレビ消して消してと、しきりに連呼している。
僕は、美味しいですねこれ、と彼の母に向かって笑顔で答えながらご飯をほおばる。
夜になると、腹痛が再発した。
内科の先生にもらった薬を飲む。
テレビからは、カウントダウンの声が聞こえる。
僕の新年、こんな感じでした。
我が家に帰る。
トイレの電気が付けっぱなしだった。
毛布もたくさん絡まって落ちていたりした。
またか。
またやるなんて本当にクズだな。
父が言った。
しくじったと思った。
生き返ってこなければいいのに。
どうして生きてしまっているんだろう。
戻ってこなければいいのに。

十二月二十九日、二回目の自殺未遂。
詳細おわり。
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by haccax | 2005-06-08 19:38 | (EMPTY)

二○○四年八月二十五日

痛い子、書きます。
俗に呼ばれる鬱病。
僕は多分、鬱病患者に分類される。
心のビョウキ?なにそれ。
保健の教科書で読むようなものだと思っていた。
自殺なんてバカバカしい。
一般論。
軽々しい考え。
知りもしないで。
定義して。

八月二十五日、一回目の自殺未遂。
風邪のような症状で一週間学校を休む。
総合病院の内科で診察。
初診だったので、待ち時間に一枚の短いアンケートをもらう。
何も考えずにチェックしていく。
3分程度で書き終わった。
看護婦さんに渡す。
名前を呼ばれる。
診察。
「心のビョウキですね」
保健の教科書のアレか、と思い浮かぶ。
考えすぎが祟ったか。
内科の先生が、家の近くの心療内科宛ての案内状を書く。
案内状のハガキをもらう。
胃痛の薬の処方箋をもらう。
次の日にその心療内科に行く。
初診でまた待たされる。
そしてまたアンケートを一枚もらう。
メンタル的なことだったので回答に時間がかかる。
書き終わって名前を呼ばれる。
先生に紙を渡す。
家族構成、学校の状況、睡眠時間などを話す。
父親のことは話さなかった。
睡眠促進剤みたいなものを処方される。
鬱病の人の日記に薬の種類が書いてあったのを思い出す。
家に帰る。
さっそく調べて効果効能を脳にインプットする。
父親が帰ってきたのでパソコンを再起動ボタンを押してから
電源を入れるボタンを押して落としてディスプレイの電源も瞬時に切る。
食事の机を片付け始める。
飯を炊いていないじゃないかと怒られる。
謝る。
プラスしてあらゆることを責められる。
ともかくも謝る。
そのときに気に障るようなことを言ったらしい。
父が台所から出てくる。
腹部を蹴られる。
ここぞとばかり伸ばした爪で父親の頬を引っ掻きかえす。
血が出る。
よく覚えていないけれど沢山殴られる。
羽交い絞めにされる。
鼻血が止まらない。
右手の親指の感覚がない。
涙と鼻水と鼻血が混ざる。
よくわけのわからない言葉をとりあえず叫ぶ。
携帯を握り締めて両親の広い寝室に駆け込む。
ドアに鍵を掛けてプラスチックの重い収納箱を倒しておく。
携帯で母に電話をかける。
僕の息遣いがおかしかったので母が心配する。
母も半ばパニックに陥り、そこで電話を掛けたことに後悔する。
早く帰ってくるから、と何度も連呼される。
うしろで電車の発車ベルが聞こえる。
電話が切れる。
電話を切った。
近くにあったティッシュを引き裂いて両鼻につっこむ。
右手の親指はミニ冷蔵庫からアイスノンを取り出して冷やす。
目の焦点が定まらない。
ベッドに正座したまま頭を倒して前屈。
身震いが止まらない。
寒くもないのに歯がガチガチ言っている。
カンコン響く母のハイヒールの音。妹の声。
玄関のドアに鍵が差し込まれる音。
引きこもった部屋に飛び込んでくる母。
物凄い形相。
しきりにどうしたのどうしたの何があったのと訊いてくる。
うまく口が動かない。
喋れない。
母がその形相のまま父に怒鳴りちらす。
妹の泣き叫ぶ声。
部屋に妹が駆け込んでくる。
背中をさすってくる。
背中にしがみついてくる。
頭をベッドにつけたまま横目で妹を宥める。
母が物凄い形相のまま帰ってくる。
おびただしい数の赤いティッシュを片付け始める。
母がオキシドールに浸したティッシュを鼻につっこむ。
右手を差し出す。
指もうまく動かない。
親指が特に動かない。
母がタウンページを持ってきて電話をかける。
もしもし、緊急なんですけれども。
病院に電話しているらしい。
大袈裟な母。
父親は多分優雅にパソコンに逃避していることだろう。
歯軋りする。
動かない身体をムリヤリ動かして車に乗る。
照明が全部けされて暗い小さな病院につく。
眠そうな若い医師が出てくる。
部屋に案内される。
X線写真を撮られる。
すぐ現像される。
右手の親指は捻挫しているらしい。
湿布貼った上から包帯で何度も巻かれる。
病院を出る。
家に戻る。
寝た。
夜中じゅう父と母が言い争っていた。
それも静まったあとの夜中起きた。
父が消し忘れたパソコンでメッセをつける。
ネットゲームを夜通しやっている人ぐらいしか見当たらない。
自分の名前のうしろに 死にます、と付け加えてみる。
期待はずれだった。
本当にがっかりした。
暗い家の中で病院でもらってきた薬を探す。
もらった薬を全部銀の容器から出す。
お茶をマグカップになみなみついでくる。
猫が鳴く。
両親の寝室にいく。
家族三人がひとつのベッドで寝ている。
母は眉間にしわがよったまま寝ている。
妹は汗をやたらと掻いたまま寝ている。
父は白い壁に顔を向けているのでよく見えない。
いびきだけは煩い。
自室に戻る。
また猫が鳴く。
ネットの友達3人に携帯からワンコする。
電源を切る。
自宅の電話がけたたましく鳴る。
受話器を一瞬上げて落とす。
切れる。
深呼吸。
マグカップのお茶を口に含む。
飲んでしまう。
また口に含む。
薬を放る。
飲み込む。
しばらく座ったまま猫をなでる。
手足が痺れてくる。
起きたら救急車のなか。
うるさい。
点滴。
そのあとの意識はない。
ご飯のときに手足と歯が震えてまともに食べれなかった。
食べ物の味がしなかった。
自律神経失調症だと母は言った。
寒くないのに寒気がした。
久しぶりに学校へ行った。
どうしたのとか心配したよとかクラスメートや教師に笑顔で訊かれた。
困ったような笑顔に、困ったような笑顔で返して適当な嘘をついておいた。
しばらく点滴の針の跡は右手首から消えなかった。
おおきな青痣ができた。
長袖で隠して歩いた。
そのうちに傷は消えた。
食べ物の味もにおいもした。
震えもなくなった。
僕は戻ってきたんだ、と思った。

八月二十五日、一回目の自殺未遂。
詳細おわり。
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by haccax | 2005-06-06 18:54 | (EMPTY)

残響

差し伸ばされた手
どうしろっていうの
僕には必要ない

掴まれた腕
どうするんだ
僕は後ずさる

望んでいないことを
それ以上に
どうして欲しい?
僕には解らない

掴んだ自分の腕
やけに細くて折れそうで
ねえ、それがどうしたというの
僕は首を振る

蹴った校庭のグラウンド
赫い血染み込んで
もう、どうしようもないよ
僕は立ち上がる
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by haccax | 2005-06-03 19:07 | 飴玉(短編)