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Nobody

僕は、誰かの欲する言葉なんて吐かないよ。
全てが望みどおりに叶うと、思わないで。

空を見て、飛べるなんて思わないで。
大部分のたった部品にしか過ぎない僕は、ただ重力に逆らって立ち上がるだけだ。

涙を一粒零すたびに心は枯れて、貪欲な誰かが喰らい尽くす。

僕の手のひらのものは、君には、あげない。
残念ながら君には幾ら方程式をたてたって、僕を解けない。
真っ赤なインクが染みてゆくだけ。

君の手のひらのものは、僕には、届かない。
どんなにコンパスを使ったって真直ぐな定規を使ったって無理なんだ。
灰になった消しゴムがこぼれてゆくだけ。

僕だなんて、思わないで。

誰かなんて、思わないで。
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by haccax | 2004-11-29 23:29 | 飴玉(短編)

夢の人

まだ、カーテンの隙間からは夜の気配が漂っていた。
僕は誰かの咽る声で起きた。叩き起こされた。
獣が唸るような声が、僕のすぐ隣で聞こえた。
重く圧し掛かるようにして被さっている毛布を退けて、ベッドからのそりと立ち上がる。
眠気は僕の周りに纏わりついて、足元さえも覚束無い。
長くて冷たいフローリングの廊下を、時折、婆ちゃんが送ってきた蜜柑の箱に足を躓かせながら
すっかり暗闇の中に沈んでしまったキッチンへと向かう。
そうだ、今日はとても不思議な夢を見たんだ...

タクシーが衝突したり、大型トラックがクラクションを鳴らしたり、バイクが派手に横転したり、臨港バスが
排気ガスを噴き出す音がして、眉を顰めて耳鳴りが反響する頭を抱え、顔を上げた。
そこはグレイの空を抱えた、ちょうど昼頃の渋谷だった。
僕の目の前の信号が青に変わって、周りの人形が一斉に号令がかかったように行列を作り動き出す。
その中をタクシーが平気で列を跳ね飛ばす勢いで突っ込んでいく。
僕はその流れの中で立ち止まって、「チッ邪魔くせえんだよガキ」「歩きなさいよ」「退けよバカ野郎」などと、
顔も見ずに通り過ぎる人形の眼を見つめて、やり過ごす。

俯くと、僕の黒いパーカーより更に深い黒が、スニーカーの周りに絡み付いていた。
僕が一歩足を踏み出すと、その黒い影は一歩前に波紋のように広がっていく。
みるみるうちにゼブラの横断歩道が黒に染まる。
木偶のぼうを飲み込んでいく真っ黒な波は、横断歩道の向こう岸へと届いた。
向こう岸には、僕のように流れの中で佇んでいる女の人が、居た。
髪も衣服も輪郭も、消しゴムで消されたように灰色にぼやけ、霞んで見えない。
彼女はしきりに何かを叫んでいる。
けれど唇が縦や横に艶かしく動いているだけで、音は全く聞こえない。
僕が指先を伸ばすと、たちまち黒い波紋は広がって、真っ黒な渦になる。
そして、ついに彼女を飲み込んだ。
途端に空の色に似た、女を造った色に似たグレイの煙が巻きついて、僕は幾度も咽た。
煙は先刻の彼女の姿を造り、黒と混ざっていった。
僕は何度も何度も、血を吐くまで咽た。
咽ながら、何かを叫んでいた。
その赤とグレイと黒の奇妙な色と、咳き込む音と、叫び声の余りの煩さで、僕の脳は起こされたんだ。

女が誰なのかは分からないけれど、「僕は貴方を知っていた」。
何を叫んでいたかは知らないけれど、「僕はそれを聞いていた」。
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by haccax | 2004-11-25 18:27 | (EMPTY)

昨日のこと。

熱を発する額を、母さんは農家のおばさんみたいなごわごわした分厚い手で触った。
それから面倒くさそうな顔をして大きな溜息をついてから、洗面所でタオルを持ってきて
アイスノンにぐるぐる巻いた氷枕を持ってきた。
僕は身体を起こそうと動かすけれど、重い何かにずっしりと尻に敷かれたようにピクリとも動かない。

仕方が無いから、母さんに学校の作文コンクールで上級生を抑えて3位になったことを言うと、
賞状をキッチンに飾り、婆ちゃんに電話で報告までした。
ついでに、ついこの間まで兄弟のように仲良く、ついこの間まで急に距離を置き離れていっていた友達が、ついこの間また元通りに仲良くなったことを話すと、
「人を嫌いになることって、すごくパワーがいるわよね」
と、悲しそうな辛そうな哀れんでいるような、複雑な顔をしながら言った。
母さんは不思議なことをいう人だと思った。
「人を好きになるのには物凄いパワーが要る」と、誰でも言うのに、まるで逆のことを言うから。
きっと、会社職業柄、そういう考えが身につくんだろうと思った。

僕は他人を嫌ったり好いたり、無意識の中でやっているから、無意識に疲れが溜まるんだ。
一番疲れない方法は、どうも思わないこと。興味を持たないこと、だという。

僕はどれも疲れる気がして、そんなことを考えることに脳をフル回転させることにも疲れて、
バッテリー切れの携帯電話みたいに、ぱたりと眠った。
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by haccax | 2004-11-18 12:58 | 飴缶(文)

からっぽ。

そっ と
それは 分からないくらいに あまりにも 自然に
ディスプレイの上を なめらかに滑った指は
ひやりとした皮も 細い骨も 触ることなく
つるつると ホコリを積もらせただけ。

打ちかけのメールは 挨拶だけで 先が続かず。
馬鹿でかいパソコンの スイッチを入れてやっても、
無意味に 起動して 主人を捜している。

電子レンジは相変わらず 500Wで唸っているし、
ヒーターは 吐き出し口を デブ猫の背中が止めている。

去年と何が変わっただろうか、と 思い出そうとしても、
幼いころの写真に埋もれたアルバムには お茶のしみが出来て、
透明のビニール袋に入った写真には 曇天の下で上手に笑う僕が居て、
何か変わったかと言われれば そんな気がして、
何も変わらないかと言われれば そんな気もする。
多分、そんなもんなんだ と、思う。

祖父が、たまに 僕が産まれたのが 昨日や 一昨日の話のようだと言う時がある。
僕は、そんなの薄気味悪くなるだけだ。
きっと何十年も昔のことの 時間の経過の区別もつかないまま こうやって過ぎていくんだ。
そのうち 病院のベッドで 植物状態になって それでも僕は、きっと
産まれたのが昨日や一昨日のことだ なんて言って 必死に筋肉を動かし 笑うんだろう。

僕は、産み落とされたまま
そこから立ち上がることもせずに、
仰向けに 太陽を見て 月を見て 白塗りの天井を見て 花柄のカーテンを見て、
死んでいくんだろう と、思う。

なにも変わらないままに。
なにも変えることもせずに。
なにも変えることもできず。

人のこころの隅っこに しがみついているのだろう。
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by haccax | 2004-11-17 20:07 | (EMPTY)

コーンポタージュ

ヒーターをつけても
指先が温まるだけで
すぐに 冷えた空気に
前よりもっと 凍えるだけ。
ぽつんと 白い湯気を立てるコーンポタージュ
メインのコーンは沈んで
いくら掻き混ぜても 浮かばない。
ドロリとした液体のなかで
同じ黄色に染まっている。

寒くないかい?
そんな底で。
出ておいで?
暖かい僕の中へ。

インスタントスープの粉に お湯を入れただけ。
干乾びたコーンは 水分を欲さず
どろどろした感触が 猫舌に触り
熱気で 詰まった鼻が通る。

コーンポタージュは また 安堵のように 白い息を吐いた。
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by haccax | 2004-11-17 19:16 | 飴玉(短編)

人間不信

グランドのフェンスの網目から
ヒトの醜さを 垣間見た

ニンゲン フシン

気色悪い 二足歩行の哺乳類が歩いてくる
気色の悪い
黄色い脚
黄ばんだ歯
緩んだ筋肉

キモチの悪い、気味の悪い ...

猿人のような声をたて 地団太を踏み
砂時計のように崩れてく地面に植えつけられ
貪欲に 根を伸ばしているんだ

深く 深く

分厚く 幾重にも重なった皮を剥ぎ
喰われてゆくように
朽ち果て腐ってゆくように

それでいて 浅はかに

ハルニラの樹が揺れるよりは 小さく
小鳥がせわしく囀るよりは 幾分おおきく
とまらない太鼓を 鳴らしつづけ
千切れちぎれになった細い黒髪は 乱れ
二つの丸い眼を 泳がせているんだ

醜く それでいて 愛しい イキモノ
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by haccax | 2004-11-14 23:15 | (EMPTY)

コンパス

  カラン

コロン

  僕の、なかで

コトリ

  音が した

グラリ

  気が、

ユラリ

  した。


刺すような場所は無くって
真っ白なノートの升目の上で
ふらふらと片足立ちをして
ブレて歪んだ円をくるり描く

不器用な、コンパス。

角のない 丸まった円の
棘のない 折れたHBの鉛筆の芯の
描かれた ぶっきらぼうの楕円を
緩んだ螺子から 覗き込む

何の方式も定義も知らない紙っぺらに
こうやって、教えてやるんだ
針で何度も、突き刺しながら
真っ黒い 溝をつくりながら
消しごむで伸びた痣をつくりながら
ひとつひとつ 丁寧に描いていく
慎重な 貴婦人のような足取りで
あたかも数メートル先は暗闇かのごとく
のろのろと確実に踏みしめて歩く年寄りのように
震える手は しきりに数えている
サンテンイチヨン、パイアールジジョウ・・・
嘲笑うように足を回して
寸分狂いのない軌道を 残していく


パチン

 不意に、

 おわる音がした

 それは、とても

 糸くずのように細く

 壊れたオルゴールのように

 両足を、きちんと そろえ

パチン

 おわる音を、した。
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by haccax | 2004-11-11 21:52 | 飴缶(文)

ACT 01:おりがみ姫

僕はその本を手にして一通り店内を無意味にぐるぐる歩き回った。
それから、さっきまで熱い視線を投げかけていた――今はレジで忙しげに無表情品物を袋に詰めている――若い女の店員の前に並んだ。
「お待ちのお客様は、こちらへどうぞ」
隣のレジの、店長らしい男が言った。
若いレジの女は一瞬、うやうやしい視線を投げつけてから、何くわぬ顔をして「レシート要りますか?」と笑顔で接客に戻った。
「ありがとうございましたあ」
ごく普通の機械的な言葉を、ごく普通に無視して、コンビニを出た。

街路地にぽつんと取り残されたように突っ立っているバス停の方へと少し歩いてから、アパートを見上げてみた。でも、幾らマンションの妙に清潔感を漂わす銀色に目を走らせても先ほどの白い女は見えず、密かに何かを期待していた自分に呆れた。
僕はそのまま暫く、項垂れ、ひび割れたベンチに腰掛けてぼうっとしていた。
そして、ふと、先ほど買った本のことをようやく思い出して、薄っぺらい辞書のような紙質のページをめくった。しかし、それから2秒と経たないうちにバスが来た。
年寄りのひとりふたりしか乗っていないバスは妙に静かで、僕が二百十円を投げ込むと更に静かになった気がした。
右の窓側の座席に座ると、不意に、ずん、と重くのしかかる何かを感じた。そのうちに、その感覚が脳みそから肩、足に伝わって、瞼が重くなる。また、乗り過ごしてしまう。抵抗して必死に目を開けようとしていると、焦点が合わなくなり、プツリプツリ途切れ途切れの記憶のなかで停留所のアナウンスを聞く。運転手の「ウイ、次停まりまあす」という間延びしたやる気の無い怠惰な声を。
まだ着くには、早すぎる。
ついに目を閉じたまま、でも意識は確かに持ちながら眠った。

何度となく眠っては起きて、を繰り返した。そして、バス停がまだ遠く着く気配が全くないのと同じに、まだ脳にずっしりと下がる、暗くて重い何かがこびりついて離れない。
それは銀ピカの馬鹿でかいピアスのように、僕の脳に垂れ下がっている。やがて、それを通しているぽっかりと開いた穴から、声にならない嘔吐となって逆流した食物が逆襲にくるんだ。
僕は夢との狭間で、虚ろな瞳をブランコのように揺らし、外を見ていた。段々とアパートが近くなる。途端に、カチリと眠気が覚める。
膨らみすぎた風船につめこまれた空気が抜けるみたいにバスが停車すると、僕は青信号のノロマのワゴン車のように動き出す。
そして深呼吸し、篭った二酸化炭素を吐きだして、その代わりに降りたばかりのバスから吐かれた出来立ての排気ガスを吸う。
一瞬、つと肺が呼吸するのを止めると同時に眩暈がした。
僕はキッとして唇を真一文字に結び、眉を寄せ、グレイの空を俯きがちにやや早足でゼブラを踏みしめた。

(つづく)

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by haccax | 2004-11-11 14:32 | (紙飛行機と僕)

...

すみません、体調不良です(苦笑)

ギターでも練習してストリートやりたいとか、無謀ですかねー。
やっぱ、無謀ですよね。
機会があれば狙ってるんですけどね。

そういうサイト、音楽創作サイトを、作ろうかなあ...と。
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by haccax | 2004-11-10 00:23

ACT2:しろい息

いくつかの交差点を人ごみに埋もれながらも信号が青のうちに渡った。
駅の前の広場には特に目的もないような顔をした中年の男女がたむろしていて、それぞれ携帯と睨めっこしていたり、煙草を買いに立ち上がったり、忙しなくブランド物の腕時計をチラ見している。
その広場の隅の方で、酔っ払いが警官に、ひたすらに何か話しかけている。
覚醒剤がどうとか、麻薬所持がどうとか騒いでいますけれどねえ、ただそれだけで頭がトチ狂ってるとか、気違いとか言うのは間違ってますぜ。
警官はそれを「ハイ、ハイ、そうですねえ」と、気だるそうに聞き流している。
酔っ払いはまだ言い足りないらしく、止まらず流暢に一方的に喋り続ける。
だいたいねえ、トリシマリと警察は声高にダラダラと薄っぺらい書類を引き出しから引っ張り出しているお前さんたちの方が気がどうにかなってんじゃないかねえ。
警官は、ハイハイと相槌を打ちながら項垂れ、何度も頭を、いかにも重そうに持ち上げていた。血色の悪い浅黒い顔に二つの血走った目玉がギョロリと埋まっていて、上唇と鼻の間の裂け目が更にサルのような顔立ちに見せている。
相槌しか打たない警官の反応に酔いが醒めたのか、それじゃあ、と言ってニイッと下品に笑って、ザリザリとペンキ塗れの作業服を引きずりながら慌ただしい駅の改札口に消えていった。
警官は何も無かったような顔をして、そして何か思い出したように胸ポケットに手を突っ込み煙草の箱を取り出し、中から当たり前のように一本つまみ口に咥え、右手でそれを覆い隠すようにライターで火を灯すと、満足気に肺を膨らませて白い大きな溜息を吐く。僕は、微風がそれを流し去るのを待ってから酸素を吸い込む。
交番のオフィスに戻った警官は、回転イスをくるりとまわし、煙草の灰が山盛りになったガラスの灰皿に、もう随分と短くなった煙草を右手に挟んで伸ばしてゆき、トントンと灰を落としてから灰皿に押し付け潰す。
すると見計らったように低い声が無線機から聞こえ、「また、酔っ払いだそうだよ」と苦い顔をして、少し嘲るような笑いかたをしてヘルメットをかぶり、白と黒のバイクのセンタースタンドを蹴り上げて飛んでいった。
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by haccax | 2004-11-05 22:59 | (紙飛行機と僕)