カテゴリ:飴箱(長文)( 6 )

なつやすみ

連休がきた。
僕のすることは限られている。決まっていた。

新幹線が到着する30分前に、駅に着いた。
公衆電話から発信。電波が悪いのかプツプツ切れる。
のぞみ43号?分かった。
改札前でポツンと突っ立って待つ。ハッキリ言って、退屈。
目の前にオバさんが乱入して前が見えなくなる。邪魔。
足は動かさないで体を傾けて、改札のさきを見る。
のぞみ43号が無事に着いたみたいだ。
スーツ姿の人とか家族連れがわんさか出てくる。
で、大半が改札で引っかかる。駅員ダッシュ。
見てたら、改札のおくから見覚えのある顔がノコノコ歩いてくる。
着いたんだったら、電話、しろよ。
会ったら抱きつくって言われてたから、少し後ろに下がりつつ会釈。
なんだよ、無駄な期待してんじゃねェよ。

JRのホーム、特にこれといった会話もなかった。
ただ目の前にでかでかと表示されてる焼肉屋の看板を、凝視してるだけ。
ええ、別におなか減ってないって。
黒地に赤字で牛角って書いてある看板を、僕は何回見たんだろう。
一番初めに来たときは、1番線と2番線の違いすら分からなかった。
今じゃ、足が覚えてる。
そんなことを考えていた。
横からの視線が、ヤケに熱くて痛かったのも知ってた。
気付いたら、自分の背中に他人の手の感触。どういうことだ。
すぐに、電車がまいりますってアナウンスが流れて、僕らは離れた。

電車の中でも、状況は同じだった。
僕は相変わらず外を見ていたけれど、やっぱり視線が痛かった。
移動中、歩いている時でも何ら変わりはなかった。
すこし歩調を速めてみても、すぐに肩を並べて歩いている。
一歩踏み出すたびに僕の右手首をノックする、誰かさんの左手。
僕は、ずっと、居留守。

水族館に行くことになってた。計画通りに。
行きの電車内は十分後発車らしい。まだ時間があった。
誰もいない車両に、二人。
誰かさんは、これがファーストになるんですけど、と笑った。
僕はひそかに、もう何度も触れ合った唇では、初めも何度目もないな、と嘲った。
そうこうしているうちに、視界の端で血の気のおおい黒い塊が動いた。
僕はただ、さげずんだ目で誰かさんを見た。悲しい眼を向けた。
唇が、触れ合った。
誰かさんの最初のキス。
僕の汚れた最初のキス。
誰かさんは相当な度胸があるらしいな。
どこまでも汚そうとしていく。
僕の舌は、頑なに拒んだ。
電車が発車した。
左腕がジーンズの間に這っていた。
痴漢プレイがお好きらしいよ。
勝手にすればいいと思った。

買おうとしていた入園料を、自販機で二人分支払われる。
僕は自分の代金だけピッタリ小銭で、誰かさんのバカでかい旅行バッグに投げ込んだ。

館内は暗いからって、少し調子に乗ってたのかな。
ライトの当たっていない暗闇で、何度も強引なキスをされた。
まるで僕は、水槽のなかの魚みたいだった。
歯を噛み締めてぽっかり口を開けていただけ。哀れんだ瞳。
僕の眼の中の海は、とても静かに闇を吸収してった。

その日、誰かさんが僕の家に泊まった。
早く寝よう、おやすみなさい。
誰かさんは酷く眼でなにかを訴えていたけれど、僕はなにも見なかった。
ウーロン茶をキッチンに流しにいくと、手招きされる。
今日の反省をするらしい。ぶっちゃけ、どうでもいい。
あぐらをかいていた足が痺れてきた。
僕はもう戻るね、言い終わる前に抱きしめられた。
更に僕の中の温度は冷えてく。悪寒がして、鳥肌がたつ。
ジーンズをひきずり下ろされる。既に誰かさんは息が荒い。落ち着け。
僕は落ち着きすぎてた。凍りつく前みたいに寒かった。
舌と指が、艶めかしく僕を触る。
両肩にひっかけられていた両脚が、汗ばんでくっつく。
すこし動くたびに、ゆっくり温度が下がってくのが、手に取るように分かる。
まだ、何も終わってなかった。僕は始まらせたつもりもなかったけれど。
で、最終的に疲れ果てて寝た。
誰かさんのケアなんて知らない。
とにかく、寝た。
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by haccax | 2005-10-12 06:46 | 飴箱(長文)

15年分のあしあと

小6の冬、僕は受験戦争の真っ只中にいた。

左を見ても右を見てもライバルばかり。
どこの子も、お金持ちの家出身ばかり。
親が医者だったり学校の先生だったりと、色様々。

僕にはそんな肩書きなんてなかった。
ただの普通の12歳の子供だった。
だけど、だから、誰にも負けない個性を持とうと必死だった。
みんなより早く漢字を書けた。
みんなより早く計算をした。
みんなと違った作品を造った。
誰も書けないような作文を書いた。

だけど、誰ひとりとして僕に目を向けようとしなかった。
見向きもせず、ただ名誉や地位だけに引っ張られていた。
個性なんて、無駄だった。
ただテストの点さえよければ全て済むのだ。
僕は絶望した。

小3からずっと入っていた塾で、僕はいつも上位3人の中に入っていた。
塾内の席順は、いつも成績順に席替えをした。
上位3人は一番前の一番ドアに近いところ。
順位が下がるごとに後ろの方の席になる仕組みだった。

僕はその席順なんかどうでもよかった。
ただ視力よかったから(笑)前すぎると見難いってところはあったけど。
でも上位3名の中に入ると、タダでノートが貰えるから、それ目当てで頑張ってた。
それだけが、僕が頑張った証になった。
証は塾の授業の黒板写しと計算式や漢字で見る間に埋まって
ただの文字が羅列した紙っぺらのゴミになった。

その頃、お小遣い制度なんか取り入れていなかったので、
買いたいものがあったらその時にお金を配布される方式だった。
僕はそれが、買い与えられる「エサ」のようでイヤで仕方が無かった。
自分の買いたいものの為に貯金することなんて、なかった。
そうやって買い与えられるのが嫌いになった。
モノを欲しがらなくなった。
我慢する癖がついた。

「物欲なんて喉元すれば熱さ忘れるものだよ」
若干12歳で何かを悟っていた気がする(笑)
ただ、その頃の僕は、ただ我慢するだけで発散することを知らなかった。
どんどんストレスは溜まっていった。積もっていった。
誰の救いも求めなかった。
何を言われても我慢した。

塾のクラス内で上位3名の中に入れないときがあった。
親に何て言い訳すればいいのか、わからなくなった。
バカ正直に、言った。
頬を、パシンって叩かれた。
僕は泣かなかった。
「受験前なのに何て点数を取ってる!」
「こんなんじゃ受験落ちても仕方がないな」
「もっと頑張りなさい」「もっと勉強しなさい」「もっと・・・」
上位に入れなかったのも、僕のせい。そのことで怒られるのも、僕のせい。
勉強しなかった僕のせい。努力の足りない僕のせい。全部、全部僕の・・・
ずっと同じような考えが頭の中で響いてループした。
我慢していても、頭の中の回転は止まらなかった。
悲しみよりも恐怖や憎悪が先に立った。
でも、それすらも我慢した。
感情は、捨てていた。
壊れて動かない、無表情な操り人形のようになっていった。

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by haccax | 2004-08-27 13:37 | 飴箱(長文)

小川のほとりの小屋にて

昔々のお話です。
村のはずれの小さな野原の小屋に、それはそれは小さな少年が住んでおりました。
少年は大きな籠を抱えて戸を足で器用に開けると、小さな小川のほとりへ籠を下ろしました。

ふと、少年は空を見上げました。
そして彼は両手を広げ、高く掲げて空を掴もうと腕を伸ばしました。
伸ばした両手は虚しく空をもがいては伸び、また虚空を掴んでは力無く落ちてゆきました。

そして少年は、何かを叫ぼうとしました。
しかし彼は、口を裂ける程大きく開いただけでした。
その間抜けに開かれた口からは出るはずの"音"は何も出ませんでした。
それもそのはずでした。
彼の喉は当に潰れていて、声など出るはずもありませんでした。

少年は俯いて脚を伸ばし、力いっぱい籠を蹴り飛ばしました。
遠く軽く吹っ飛んだ大きな籠は、その中身を宙に振りまきながら小川へ落下しました。
籠は勢い良く小川に突っ込み、暫く潜ってから浮き出、流れはじめました。

そよそよと流れる小川と籠をぼうっと眺めて、少年は考えました。
『握った拳に滴るこの冷たい雫はどこから流れたのだろう。』
『喉が潰れるまで空に叫んだ声はどこまで誰に届いたのだろう。』
『「もう、何も失うものなんかないから」と言って出ていった彼女は、
一体何を失って戻ってきたのだろう?』
『そして一体ボクは何を失ったのだろう?』

少し考えて、少し頭を傾げて、
そして少年は笑いました。自嘲と諦めが入り混じった笑いでした。

また少し経ってから、少年は立ち上がりました。
ばらばらに散った籠の中身を胸に抱きかかえながら拾い集め、
そして"それ"を静かに川に流しました。

"それ"は、色とりどり綺麗に揃えられた人間の身体の各部によく似たようなものでした。
水を浴び日光を浴びて、てかてかと光り輝いて流れました。
時折お互いにぶつかり合いながら、どんぶらこ、どんぶらこ、と下流へ流されてゆきます。

ある時、一際大きい"何か"が水面に浮かび上がりました。
整った輪郭や唇や目鼻立ちから、まだ十代前後の女の子の顔…頭部分だと分かりました。

やっと少年は、何か思い出したかのように小走りで川の下流へと移動しました。
そしてぷっかりと浮かんだ少女の顔を見つけ、声をかけようとして、唇を動かしました。

「ボ ク は キ ミ を 失 っ て し ま っ た ん だ ね ?」

その質問に答えるかのように、水に濡れた少女の顔が少し微笑んだように見えました。
少年も微笑み返し、そして小屋に戻りました。


それから、しばらくの時が経ちました。


さらさらと小川のせせらぎが聞こえます。
そのほとりで小鳥がさえずり、トンビは空高く舞っています。

とその時、ばばばばばば、というひと繋がりの銃声が小屋から野原へ2回響きわたりました。
それと同時に、くぐもった悲鳴が聞こえました。

そしてまた、今度は違う銃声のばあんという音がして、今度は小屋のドアが吹き飛びました。
ドアが吹き飛んだアンバランスな小屋から、一人の全身黒い服を着た人間が出てきました。
その人間の右手には小さな拳銃が、左手には血塗りのナイフが握られておりました。
小屋の床には"何か"と、空薬莢がわんさか転がっていました。
暫く床に這いつくばった"何か"を眺めてから、ふっと微笑しました。

それは先刻、少年が流して捨てた少女の顔にそっくりの女でした。
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by haccax | 2004-08-23 16:45 | 飴箱(長文)

祈 り

今日も高く日が昇る空を
ぼんやりしながら眺めていた
さなぎを脱いだ蝶は飛び立ち
薄っぺらい抜け殻を残して
ああ、いつまでだろう? 僕はまだそれを抱きしめてる

失いたくないものばかりが
いつかは 跡形も無く消えてしまう
それは僕自身が求めてしまったから?

だからずっと祈ったんだ
目に映るもの、耳に届くもの、全てが
全部消えてしまえばいい、と

ああ、僕はいつからか
君さえも 失ってしまって

しつこく血塗れたナイフを
ああ、何度目だろう? 僕はまた握っているよ

穴の空いた言葉切り捨て、床を汚す血痕を拭って
薄暗い散らかった部屋には
ああ、いつからだろう? 僕はもう居なくなって

そしてずっと祈ったんだ
目に映るもの、耳に届くもの、全てが
全部消えてしまえばいい、と

ああ、僕はいつからか
祈る声すら 失ってしまって

どうして知ってしまったのだろう
永遠という 遠く儚い祈りを
どうして知ってしまったのだろう
希望という 遠く愚かな願いを

どうして祈ってしまったのだろう
目に映るもの 耳に届くもの 全て
全部消えてしまえばいい、と
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by haccax | 2004-08-23 13:32 | 飴箱(長文)

真っ直ぐ

いつの日か見てた夕焼けといつの間にか灯る蛍光灯の光が、
優しく撫でるように僕を照らす。
僕は誰も居ない舗装道路に独り佇んでいた。

ふと道路脇に目をやると、いつの日にか見た仔猫が居た。
不意に点灯した家の窓からは懐かしいカレーのにおいがして、
知らぬ間に全て忘れてた過去を全て取り戻したような気持ちで、
見慣れた故郷がなんだか恋しくなる。

――嗚呼、何であの頃僕はああだったんだろう?
そして僕は、そうでいられたんだろう。何を失ったのだろう。
何が、変わって…変えてしまったのだろう。
もう随分時間が流れてしまったけれど、結局僕自身が変わったように思ってるだけで
やっぱりどこも変わってなくて。

いつの日にか遊んだ公園のブランコを漕ぎながら、知らぬ間に小さく縮んだ街を眺める。
あちらこちらに張り巡らされた電線が、青白く霞んできた大きな空を幾重にも分けた。

でっかい宇宙のなかのたった一つの星のなか。
でっかい地球のなかの、数え切れない生命体のなかのひとつ。

――嗚呼、こんなにも僕達はちっぽけで、救いようが無くてとても愛しい生き物?
俯いてたり、目を細めて星見上げてみたり、無理して笑ってみたりして。
みんなちょっとづつ違って見えるけど、瞳に映る空の大きさだけずっと変わらなくて。

日に日に僕達は少しずつちょっとずつ変わっていってる。
でも、僕が僕であることには変わりないように、君が君であることには変わりない。
そうやって少しずつ変わって、やっと少しずつ見えてきた道を確認しながら、
やっぱり少しずつ少しずつ、心にぽっかり空いた穴を埋めてくんだ。

安心して。
怖がって殻に篭もることなんかない。
逃げないで。
結局みんな自分自身のことで精一杯だよ。
空ばかり仰がないで。
自分の足元の泥濘に気付いて。

泥濘から抜け出して、その瞳で本当の空の藍を見て。

暗闇から這い出して、その脚で大地を踏みしめて。


その手で そらを掴んで。
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by haccax | 2004-08-23 13:24 | 飴箱(長文)

君が帰ったあとの僕

実は君が思ってるほど僕は強くないんだ。
本当はすごく怖がりで弱虫で
いつも造り笑顔を貼りつけ、敢えてパンクな服を着て
悪ぶってみせてるだけ。

君が帰ったあとの僕。

いつも何してると思ってるの?
楽観的で前向きな君はこんなこと考えたことないだろうね。
だから、こっそり教えてあげるよ。

君を飲みこんでった玄関のドアの鍵を閉めて
やっと地球のはじっこから顔を出した太陽に、しかめっ面を食らわせて
2重のカーテンを閉める。
そのままキッチンへ向かって冷蔵庫の中をあさり
100均の冷凍スパゲッティを電子レンジに放りこむ。
その間にダイニングのCDラジカセを起動し、洋楽を大ボリュームで。
ついでにTVを付けてスカパーのMUSICチャンネルを
やっぱり鼓膜が破れるほどにボリュームを上げる。
その雑音の中で、まだ君の温もりをたたえるソファに
僕はタオルケットにくるまり体育座りをして縮こまって。
両手で携帯をしっかりと包み込んで。
それで、君のメールの返事を待ってるってだけ。
ただ、それだけ。

独りになる時間を欲しがってるくせに、いざ独りになると寂しがるんだ。
だから君といる時も同じで。
一緒に居るときはそっけない態度をとってるけど
独りぼっちになる度に君を恋しがってるんだ。

なあ、知ってた?

僕がこんなにちっぽけで痩せっぽっちの仮面を被り
血が滲むほど拳を握って奥歯を食いしばり
こぼれそうな涙を隠し、止まらない震えを堪え
この一瞬を見逃さないように瞳を見開いて
ずっとずっと君を待ってることなんて

知らないんだろ、僕のことなんて。

なんにも。
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by haccax | 2004-08-21 21:29 | 飴箱(長文)