眠れない夜(訪れない朝)

こんなに静かな夜に限って
僕はどうしても、眠れない
眠れない夜に限って
僕の周りには、誰もいない

そういえば、あの日だって
僕の周りには、誰もいなかった
しんとして、時折遠くで電車が通り過ぎる音がして
誰の声も聞こえない静かな夜
クラヴィノーヴァの冷たい鍵盤の上に伏す

僕は翌朝、ニュースにも報道されずに
ただの数値として処理され、加算される(だろう)
かあさんは目玉焼きを焦がし
いもうとは牛乳をこぼし
とうさんは電車に乗り遅れる

君が知るのはいつだった(だろう)か
三日後か
数時間後か
何年か過ぎた後か
それともずっと知らずに過ごすの(だろう)か

僕は残酷にも天や地獄にも逝かず
ただぱったりと生きることをやめて
意識も言語も光や音という感覚も失い
腐敗して風化する(だろう)
蔑むことも崇めることも
全て言語としての意味をなさない

僕の所為?(誰の所為?)

僕は無責任だ
遺書でも書いたら気は紛れた(だろうか)
ああ、遺書でも残してしまったら
僕が(代わりに)死ねばいいのに?
そしたら(殺した奴は)二度殺される(だろう)
要はそんなことじゃない

もし僕が、今日いなくなっていても
それを知る人は、今日を生きている
いなくなった僕は、いなくなった今日を知らない
それを知る人は、いなくなった僕の昨日を知らない

僕がいなくなった(はずの)日
君は何の不安もなくベッドで横たわり
心地よい寝息をたてて眠っていた(だろう)
僕がちいさく音を立てても
君は気付くこともなく眠り続けた(だろう)

だから、僕は安心して、

いなくなった(はずだ)

その日

君が何の夢を見ていたか
僕は知らない(だろう)
楽しい夢か、恐ろしい悪夢か
そもそも夢など見ていなかったのか
どんなことでもいい
僕は知らない(だろう)
知らないまま、僕は、今生きている

僕(と君)は、それを、君(と僕)のその日を、知った

いなくなった(はずの)僕は
いなくなった僕の昨日を知っている
いなくなった(はずの)僕は
いなくなった僕のその日を知った
いなくなった(はずの)僕は
上手にいなくな(れなか)った代償に
君を抱きしめること(しか)出来ない
その拳は僕に向けて
そのナイフは僕が受け止めて
だから(だけど)、やめて
君(だけ)はいなくならないで

ごめんなさい
上手く(いなくなれ)なくて、ごめんなさい
上手に(生きることが)出来なくて、ごめんなさい


所詮は下らない一匹の醜い生物おろかものの知恵(ひとつおぼえ)
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by haccax | 2007-06-04 03:10 | 飴缶(文)


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