人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ジャーニー

家出をするなら断然、夏がいいに決まっていた。
いくら太陽が暑くたって、焼死するわけじゃなかったから。
ビルに寄り添って歩いて、できるだけ長くて太い日陰を選んでいけば、
余計な水分の蒸発を防ぐことが出来たんだ。
それでもセミの声が耳をつんざいて、思考を熱くさせた。

ショー・ウィンドウに飾られたものを買う趣味がなかった僕は、
本や楽譜以外に金を費やすことがなかった。
必要なものがあれば、とことんケチをする。
それか、年中行事まで覚えていれば、そこで。

キレイなカバーに包まれた新刊と売り文句の本屋を通り過ぎて、
樹木のようにシワの刻まれたジイさんの、やけに背が高い棚の古本屋に通った。
でも、その日は国民的祝日だったから、
古本屋は、どこかの暴走族がスプレーで描いていったシャッターで閉ざされていて、
ジイや古本のカビ臭いにおいは、嗅げなかった。

上空はるか遠くをヘリコプターが泳いでいた。
そこまで飛べるわけもないのに、少しだけ人差し指をのばしてクダラナイ夢を投げた。

つまらなそうに俯いて歩いた、
ソラは奇麗に笑っていたんだ。
by haccax | 2005-10-31 09:33 | 飴玉(短編)


<< ホスピタル 堕落論 >>