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Doppelgänger3

ある日、
ぼくは夢のなかで彼に、会った。

同じ顔をして同じ姿をして作り笑顔が絶えない
まるで僕だった。
まるで、という表現はおかしいのかもしれない。
恐らく彼は僕自身であるんだから。

ただひとつ、僕と彼が違ったところ。
彼は、少し寂しそうな表情をして時たま下を向いて俯いては、
呪文のように独り言を小声で囁く仕草をすることだった。

それが僕自身だったのかもしれない。
定かではないけれど・・・
彼が、本当の僕だったのかもしれない。

僕の視線に気付いたのか、不意に彼は顔を見上げた。
そして、にんまりとお決まりの作り笑顔を顔に貼りつけ、実に彼は楽しそうに思い出を話した。
楽しかったこと、面白かったこと、感動したこと。
彼が話す思い出は全て良い事ばかりのきれいな思い出だった。
辛かった出来事など忘れてしまいたい、寧ろ脳裏から消し去りたい、・・・そんな感じだった。

そして彼は、未来のことも一切話さなかった。
希望も、願いも、何も無かった。

まるで糸を失った操り人形のような瞳が、僕を射抜く。
光を失ったその瞳は、まるで輝きを無くした黒いダイヤモンドのようだった。

彼は、暫くすると急に話を止めた。
僕の反応が面白くないのか、それとも気に食わないのか、また俯いて独り言を呟き始めた。


そこで夢は醒めたんだ。
いや、彼のほうの夢が醒めたのかもしれない。

――じゃあ僕は、誰?
未だ目に焼き付いている、彼のひきつった作り笑顔と光を無くした黒ダイヤの瞳は

全部、僕のもの?
by haccax | 2004-08-23 16:37 | 飴缶(文)


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